新規事業のアイデアは、ひらめきを待たず、お客様の課題から出すのが近道です。出どころは6つに分けられます。最初に試すなら、「既存のお客様の困りごと」と「自社の技術・ノウハウ」の2つです。
この記事は、すでに事業を持つ中小企業で、アイデア出しを任された経営者や担当者に向けて書きました。出どころ別の一覧と例、課題から案を出す5手順、発想法、選ぶ基準、試し方の順に進めます。英語資料の日本語訳は当社によるものです。
株式会社01STARTの芝先です。生成AI研修と新規事業の支援をしています。
新規事業のアイデア一覧と例|出どころ別の6分類
新規事業のアイデアは、出どころで6つに分けると探しやすくなります。この記事では、これまで手がけていない商品・サービスや顧客に向けて、新しく収益を生む取り組みを新規事業と呼びます。既存商品の改良や値付けの見直しは含めません。
次の例は、すべて説明用の仮の話です。実在の会社や事例ではありません。
1. 既存のお客様の困りごと
- 機械部品の製造業:納品後の使い方の問い合わせが毎月届く。対応を月額の保守サービスにする。
- 工務店:引き渡し後の小さな修繕の依頼が散らばっている。定期点検の会員制にする。
- 税理士事務所:顧問先から経営数字の相談が来る。数字の読み方を教える講座にする。
2. 自社の技術・ノウハウ
- 食品加工業:社内で磨いた衛生管理の手順を、他社向けの診断と研修にする。
- 印刷会社:色を安定させる調整の技を、小さなメーカー向けの相談窓口にする。
3. 自社の設備・人・拠点
- 運送業:荷物の少ない帰り便の空きを、近隣の事業者に貸す。
- 製造業:稼働が空く夜間の設備で、他社の試作品を引き受ける。
- 旅館:使っていない宴会場を、貸会議室として貸し出す。
4. 取引先・業界の不満
- 建材卸売業:取引先の工務店が、見積もり作成に追われている。数量の拾い出しを代行する。
- 部品メーカー:業界では小ロットの注文を断る習慣がある。小ロット専用の受付を作る。
5. 社会の変化
- 介護用品の販売店:家族の介護が始まった人向けに、選び方の相談とレンタルをまとめる。
- 建設会社:人手不足の同業向けに、現場の書類作成を代行する。
- 小売店:高齢のお客様向けに、買い物の代行と配達を始める。
6. 既存事業の隣
- 印刷会社:同じお客様に、販促物のデザインまでまとめて請ける。
- 農産物の加工業:同じ商品を、飲食店向けの業務用サイズで売る。
5の「社会の変化」を探すときは、PESTの進め方で政治・経済・社会・技術の4面を見ると、抜けが減ります。
例を眺めただけでは、自社の案にはなりません。自社に当てはめるときは、次の2点を確かめます。
- そのお客様は、似た悩みにすでにお金や時間を使っているか
- 自社の人と設備で、最初の1件を届けられるか

新規事業のアイデアの出し方|課題から始める5つの手順
出し方の基本は、アイデアではなく課題から始めることです。商品の案を先に考えると、良し悪しを自分の好みで判断しがちです。課題から始めれば、案が当たっているかを、お客様の状況と照らして確かめられます。
関連する公的な調査として、中小企業白書2024年版があります。イノベーション活動の課題には、優先度の高いものがいくつか挙がっています。最も高いのは、「自社の強みをいかせるニーズの探索」と「ニーズを把握するためのマーケティング」です。
白書が示すのは課題の名前までで、案の出し方ではありません。案を出す前に、誰のどんな困りごとを狙うかを決める。この5手順は、そう考えて作った当社の整理です。
1. 現状と目標を書く
2. 差を「問題」とし、取り組むものを「課題」に決める
3. 課題をお客様の側から言い直す
4. 課題に対して案を数多く出す
5. 案を絞って、小さく試す
手順1から3はこの章で説明します。手順4は次の章、手順5は「アイデアの選び方」と「選んだ案の試し方」の章が対応します。
現状・目標・問題・課題の4欄を埋める
最初に、A3用紙1枚に「現状」「目標」「問題」「課題」の4欄を作り、手で書きます。現状と目標の差が問題で、問題のうち自社が取り組むものが課題です。
私は、ある団体向けの研修で、A3用紙1枚にこの4欄を、最初はAIを使わず手書きで埋めてもらいました。課題の欄は、AIでできるか判断がつかなくても、できそうなら書いてよいと伝えました。できない理由から入りがちなので、先に枠を外したのです。
新規事業の案出しでも、この4欄が出発点になります。「こんな商品があったら」ではなく、「この課題を解く」から始められるからです。
記入の仮の例を挙げます。
| 欄 | 記入の例(仮) |
|---|---|
| 現状 | 納品後の使い方の問い合わせが毎月届き、担当者の時間が取られている |
| 目標 | 問い合わせ対応の負担を減らし、新しい収益源を1つ作る |
| 問題 | 対応に追われて、新しい取り組みに使える時間がない |
| 課題 | 同じ質問の多い対応を、サービスとして切り出せないか |
課題をお客様の側から言い直す
課題が決まったら、自社の言葉で書いた課題を、お客様の側の言葉に直します。手がかりになるのが、Jobs to Be Done(お客様が片づけたい仕事)という考え方です。
ハーバード・ビジネス・レビュー2016年9月号で、クリステンセンらが論じています。主張はこうです。企業が顧客のプロフィールやデータ上の相関の分析に偏っている。顧客が片づけようとしている仕事に目を向けていないため、イノベーションの成果が安定しない。
言い直しの道具としては、別系統ですが、Strategyzerのバリュープロポジションキャンバスが使えます。お客様の側を3つに分けて整理します。
- お客様がやりたいこと、片づけたいこと(Customer Jobs)
- その途中での困りごと(Pains)
- うまくいったときに得たいこと(Gains)
課題の欄に書いたことを、この3つに言い直してみてください。言い直せないなら、課題がお客様の実際の行動に結びついていない可能性があります。
誰のことかが曖昧なら、先に人物像を絞ります。作り方はChatGPTを使ったペルソナの作り方に書きました。どの場面で困るかを並べるなら、カスタマージャーニーマップの作り方が使えます。

案はどう増やすか|強制結合法・SCAMPER・デザイン思考とAI
案を増やす型は3つあります。強制結合法、SCAMPER、デザイン思考で、どれも課題を決めてから使います。
強制結合法
強制結合法は、ターゲット、課題、技術や手法の3つを無理に組み合わせて、案を大量に出す方法です。当社の研修で使っている案出しの型です。
説明用の仮の例を挙げます。「ターゲット:地方の工務店」「課題:見積もりに時間がかかる」「技術:生成AI」と置きます。3つの組み合わせを変えながら、案を書き出していきます。
私は、ある企業の個別コンサルティングで、2回目にこの方法を解説しました。そのとき、数をたくさん出して、良いものが数個残ればよい、という目安を伝えました。数字の正確さではなく、数を出すことの意味を伝える言い方です。出した案は、点数をつけて絞り込みます。
最初から良い案を狙うと、手が止まります。数を出す工程と選ぶ工程は、分けて進めてください。
SCAMPER
SCAMPERは、既存の商品や事業に、いくつかの問いを順に当てる型です。「置き換える」「組み合わせる」「拡大する」「縮小する」などがあります。無から作らず、いまあるものを変形させます。
自社の主力サービスに「縮小する」を当てると、機能を絞った入門版が思いつきます。「組み合わせる」を当てると、他社のサービスとのセット売りが出ます。既存事業を持つ会社は、変形の元になる素材が手元にあります。
デザイン思考
デザイン思考は、共感、課題の定義、発想、試作、検証の流れを行き来しながら進める方法です。
スタンフォード大学d.schoolのDesign Thinking Bootlegは、この流れをカード型の道具集にして公開しています。
モードは次の5つです。
- 共感(Empathize)
- 課題の定義(Define)
- 発想(Ideate)
- 試作(Prototype)
- 検証(Test)
順番に縛られず、どこからでも始められると説明されています。
案出しの工程は、このうち発想に当たります。前の章で課題の定義まで済ませておけば、発想で迷う場面が減ります。
AIで案を出すときの使いどころ
AIに案を出させるときも、課題、ターゲット、使いたい技術を先に決めて渡します。条件が具体的なほど、案も具体的になりやすくなります。
手順は生成AIでビジネスアイデアを生み出す方法にまとめました。AIが出した案は、そのまま選ばず、次の章の基準で自社に合うかを人が判断します。

アイデアの選び方|既存事業を持つ中小企業の評価基準4つ
研修では、市場規模、成長率、競合の状況で案に点数をつけます。既存事業を持つ中小企業には、次の4つのほうが使いやすいと考えています。「課題の切実さ」「自社の強みが効くか」「小さく試せるか」「既存事業への影響」です。
この4つは筆者の見解です。公的な調査や原典で、正しい評価基準として確かめられたものではありません。
根拠にした公的調査は、中小企業白書2025年版です。新規事業の検討で最も重視する外部環境は、「競合他社の特徴・動向」を挙げた事業者が最多でした。
白書は、一概にはいえないとしつつ、こうまとめています。自社の経営資源をいかした独自性のある製品・サービスに、取り組むことが求められる。競合の整理には、5フォース分析が使えます。
基準1:課題の切実さ
代わりの手段に、お金か時間がすでに使われているか。これが最初の確認点です。使われているなら、課題は切実です。
使われていないなら、解決に払う動機が弱い可能性があります。ただし、代わりの手段がないだけで困っている場合もあります。その場合は、「解決できたらいくらまでなら払うか」を、お客様に直接聞いて確かめてください。
基準2:自社の強みが効くか
人、技術、顧客、設備のどれかで、他社より有利に働く資産があるかどうかです。
強みの言語化は、意外に難しい作業です。白書2024年版も、先行研究の指摘として、自社の強みを客観的に把握し言語化できている中小企業は少ない、と載せています。迷うときは、既存のお客様に「うちに頼む理由」を聞くのが早い方法です。
基準3:小さく試せるか
最初の1件を作るのに大きな設備投資や長い開発が要る案は、外れたときの損失が大きくなります。少ない費用と短い期間で作れる案ほど、高い点をつけます。
基準4:既存事業への影響
既存事業が止まっては、本末転倒です。新規事業に人を割いたあとも、既存の業務とお客様との関係が保たれるかを確認します。同じ人員を使う案は、点を下げます。
点数表で比べる
4つの基準を1から5点で採点して並べると、案の優劣を言葉で説明できます。「既存事業への影響」は、影響が小さいほど高い点にします。
| 案 | 課題の切実さ | 自社の強み | 小さく試せる | 既存事業への影響 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 案A | |||||
| 案B | |||||
| 案C |
合計点は、決め手ではなく話し合いの材料です。同点なら、基準1と2の高い案を優先します。ただし余力の小さい会社は、基準3と4を先に見てください。

選んだ案の試し方と、よくある失敗3つ
選んだ案は、作り込む前に最小の形で試します。目安は2〜4週間です。規模によって変わるため、あくまで当社の整理上の目安です。
試し方の手順は、次のとおりです。
1. 確かめたいことを1文で決める。例:「工務店が月額1万円なら、保守を申し込む」
2. 成功の基準を、試す前に決める。例:5社に案内して、2社が申し込みたいと答える
3. お客様3〜5社に、課題が本当にあるかを聞く
4. 簡単な案内資料と価格を見せ、仮申し込みや予約が取れるかを見る
5. 基準を満たさなければ、案を変えるか、やめる
上の数字は、説明用の仮の例です。事業の前提を1枚にまとめるには、リーンキャンバスが使えます。
新規事業でよくある失敗は、3つに整理できます。
- 既存事業の人員を食う:同じ担当者が兼務し、どちらも中途半端になる。基準4で防ぎます。
- お客様の声を聞かずに作る:商品が完成してから売り先を探す。手順3と、上の試し方で防ぎます。
- 最初から大きく投資する:設備や開発に先に費用をかける。基準3と、小さく試すことで防ぎます。

まとめ
- アイデアの出どころは6分類で、最初は「既存のお客様の困りごと」と「自社の技術・ノウハウ」から探します
- 出し方は、4欄を手書きし、お客様の側の言葉に直してから、案を数多く出す順です
- 案を増やす型は、強制結合法、SCAMPER、デザイン思考で、AIには条件を決めて渡します
- 案は4基準で点数をつけて比べ、選んだ案は2〜4週間の最小の形で試します
最初の1歩は、A3用紙1枚に「現状」「目標」「問題」「課題」を書き出すことです。課題の欄が1つ埋まれば、一覧の出どころに照らして、案を3つ出せます。
どの課題を選ぶか、案出しをどう進めるかを一緒に整理したい場合は、資料請求からサービス資料をご覧ください。
著者の実績です。グロービス経営大学院『27歳からのMBA』改訂版(東洋経済新報社)で、「AIを活用する力」の章を書きました。登壇した生成AI活用セミナーの累計参加者は、1万人以上です。
