ビジネスが顧客主導になっている現代において、ビジネスにおける顧客理解とマーケティング戦略の最適化の重要性がますます高まっています。その中で、「カスタマージャーニーマップ」は、企業が顧客の体験を視覚化し、顧客のニーズや期待を正確に把握するための強力なツールとして注目されています。
本記事では、カスタマージャーニーマップの基本からChatGPTを使った作成方法、実践までを網羅し、企業がどのようにして顧客視点を取り入れ、ビジネスの課題を解決できるかについて解説します。
第1章: カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーの定義と目的
カスタマージャーニーとは、顧客がブランドや商品を認知し、購入し、再購入するまでの一連の体験を「旅」に例えたものです。顧客は店舗やECサイトなどのさまざまな接点を通過し、この過程を時系列で可視化することで、顧客の視点から体験を把握し、改善することができます。その中でカスタマージャーニーの目的は、顧客理解を深め、マーケティング戦略を最適化し、顧客体験を向上させることです。
顧客は、通り一遍の情報ではなく、自身のニーズや興味に基づいたカスタマイズされた体験を求めています。このため、企業は顧客の行動や感情を深く理解し、個々のニーズに応じたパーソナルで一貫性のある対応が求められます。
インターネットの普及により、消費者は情報を発信し、企業との対話を行うようになりました。顧客主導の時代において、顧客を中心に考え、個別の体験を提供することが企業の成功に繋がります。顧客のよりパーソナルな側面を理解し、製品やサービスを利用した先にある顧客体験を向上させていく必要があります。
カスタマージャーニーマップの重要性
顧客は一貫性のある特別な体験を期待します。カスタマージャーニーマップは、顧客の行動や感情の変化に迅速に対応するための仮説構築を助けます。費用と時間をかけずに顧客の期待に応えられ、マップを作成する過程で顧客の行動や感情を理解する姿勢も養われます。
社内の共通言語としての役割もあります。同じ商品やサービスでも、部門間や社員がそれぞれ異なる顧客像や体験を想定してしまうことがよくあります。これが原因で、社内での認識のズレが生じ、効果的なマーケティング戦略を立てることが難しい場合もあります。カスタマージャーニーマップは、これらのズレを解消する共通言語となり、全員が共通の顧客像と体験を共有するためのツールになります。
顧客視点で顧客の行動や感情の問題点を発見するため、顧客の視点に立った新しい体験や施策を考案することができます。具体的には、顧客の感情の変化をマップ上に可視化し、低下するポイントを改善し、上昇するポイントをさらに強化する施策を検討していきます。
カスタマージャーニーマップ作成の事前準備
ペルソナと共感マップの作成
カスタマージャーニーマップを作成するためには、まずペルソナを明確に設定することが重要です。ペルソナを設定することで、ターゲットとする顧客の行動やニーズをより具体的に把握することができます。その後、共感マップを作成し、顧客の感情や行動を視覚化します。これにより、顧客の体験全体を俯瞰的に捉え、顧客視点に立った改善策を導き出すことが可能になります。
カスタマージャーニーの期間設定
カスタマージャーニーの期間は一般的に1ヶ月以内が適しています。これにより、顧客行動の変化や市場の動向に迅速に対応できます。例えば、アパレル製品の購入プロセスでは、商品との出会いからSNSへの投稿までを1つのジャーニーとします。
数ヶ月や年単位など長期間のカスタマージャーニーとなると、ステージと接点が多く複雑性が増し、全体像の把握が難しくなります。解像度が低くなりがちで、対策も曖昧になりやすいです。これでは市場や顧客のニーズの変化にも迅速に対応できません。
高価格帯の商材のような購入までに時間がかかる場合、全体のカスタマージャーニーを複数の短期間に分けると効果的です。例えば、住宅購入プロセスでは、モデルハウスの認知からモデルハウスの初訪問までを一つのジャーニーとし、その後の購入決定までを別のジャーニーとして描くことで、各フェーズにおける顧客の体験を詳細に分析できます。
第2章: カスタマージャーニーマップの作成手順
一般的なカスタマージャーニー作成手順
- ペルソナと共感マップの作成
カスタマージャーニーの作成に先立ち、ターゲットとする顧客のペルソナを明確にし、共感マップを作成します。ペルソナは、顧客の特性、ニーズ、行動パターンを表す架空の人物像です。共感マップでは、彼らの経験(見ているもの、聞いているもの、考えや発言、行動)を詳細に把握していきます。 - 顧客行動の把握
次に、カスタマージャーニーの始まりと終わりを設定します。その中で顧客がどのような行動をとるかをステージごとに考えます。例えば、アパレル業界では、顧客がSNSで商品を発見し、リサーチし、試着し、購入し、SNSに投稿するという流れを想定します。 - 顧客接点の特定
各行動において、顧客とブランドが接するポイント(顧客接点)を特定します。例えば、SNSでの発見時にはスマートフォンが接点となりますし、実際の購入は実店舗やウェブサイトなどがあります。 - 感情の変化の記録
顧客が各ステージでどのような感情を抱くかを記録します。例えば、SNSで商品を見つけたときには「かわいい」と感じ、試着時には「これが欲しい」と感じるかもしれません。 - 対応策の検討
各ステージで顧客の感情や行動に対してどのような対応策を取るべきかを検討します。例えば、在庫確認をスムーズにするためにECサイトを改善したり、店舗スタッフによるSNS投稿を推奨したりします。
上記は、通常作成の場合ですが、この部分をChatGPTを使ってカスタマージャーニーマップを作成してみましょう。
ChatGPTでのカスタマージャーニーマップ作成
ChatGPTで作成するメリット
従来、カスタマージャーニーマップを作成するには、顧客調査や分析、アイデア出しなど、多くの時間と労力を必要としてきました。顧客アンケートを実施したり、インタビューを行ったり、データを分析したりと、様々な作業をこなす必要があり、専門的な知識やスキルも求められます。そのため、中小企業や人材不足の企業にとっては、カスタマージャーニーマップの作成が大きな負担となっていたのが現状です。
しかし、ChatGPTの登場によって、これらの作業が効率化され、誰でも簡単にカスタマージャーニーマップを作成することが可能になりました。ChatGPTは、膨大なテキストデータを学習しており、顧客の行動パターン、感情、思考を分析し、カスタマージャーニーマップの作成を支援することができます。
プロンプト(一部)と出力結果
では実際に作成していきましょう。
まずは、訪日外国人向けに関する事業を考えていると仮定します。現在のカスタマージャーニーを理解するために、顧客の行動や感情を記録します。すでに作成しているペルソナと共感マップをChatGPTに理解させた上で、今回書いてもらうジャーニーの最初と最後のフェーズやステージ数を指定し、マップを作成してもらいます。
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作成後のアクション
- 顧客行動と感情の分析
各ステージにおいて、顧客がどのような行動をとり、どのような感情を抱くかを分析します。この分析により、どのステージで顧客が不便を感じているかを把握します。今回の場合は、旅行の準備中に感じる不安や手間、実際のお土産選びの悩みなどのフェーズに不満や不便さがあると考えます - 対応策の検討
各ステージで顧客の不満や不便を解消するための具体的な対応策を考えます。例えば、旅行予約時の不安を軽減するために、予約サイトのユーザビリティを改善し、予約確認のプロセスを簡略化することが考えられます。また、SNSでの情報発信を強化し、顧客が旅行先の魅力をより感じられるようにすることも有効です。 - 仮説の検証
カスタマージャーニーマップは仮説に基づいて作成されるため、実際の顧客からフィードバックを得ることが重要です。実際に訪日外国人へのインタビューやアンケートを通じて、仮説が現実に即しているかを確認し、必要に応じて修正を行います。
また、カスタマージャーニーマップは一度作成して終わりではなく、継続的に改善していく必要があります。顧客のニーズや市場環境の変化に対応するため、定期的に見直しを行い、新たな対応策を取り入れていくことが重要です。
第3章: カスタマージャーニーマップの実践例
施策への落とし込み例
さきほど作成したカスタマージャーニーマップを元に、活用方法をイメージしてみましょう。
顧客体験の改善
カスタマージャーニーを分析することで、顧客がどの段階で不便を感じているかを明確にし、具体的な改善策を導入することができます。例えば、情報収集の段階で不便を感じている場合、アプリの情報量を増やし、使いやすさを向上させることが考えられます。
マーケティング戦略の改善
顧客がどのような接点でアプリを知り、利用するかを把握することで、効果的なマーケティング戦略を立案することができます。例えば、SNSでの宣伝を強化し、ターゲット層にリーチする方法を検討します。
新サービスの開発
カスタマージャーニーを基に、顧客のニーズを満たす新しいサービスや機能を開発することができます。例えば、旅行準備をサポートするためのチェックリスト機能や、旅行中に役立つリアルタイム情報提供サービスなどが考えられます。
CJMを作成する前と後では、施策の精度が大きく変わり、顧客体験の向上が期待できます。
さらに、作成されたカスタマージャーニー仮説の精度を高めるためには、実際の顧客インタビューでの検証が不可欠です。インタビューを通じて得られた実際のデータを基に、仮説を修正し、現実に即したものにしていくことが重要です。仮説が現実にどれだけ即しているかを検証することで、より効果的なマーケティング戦略や製品開発を行いましょう。
補足:B2Bビジネスにおけるカスタマージャーニー
カスタマージャーニーは、顧客の感情の変化が購買に大きく関わるB2Cビジネスでよく活用されます。一方、B2Bビジネスでは複数の人物が意思決定に関与し、ロジカルに判断され、長期にわたるプロセスになることも多いため、カスタマージャーニーがより複雑になります。
担当者個人と意思決定者のジャーニーは異なるため、B2Bのカスタマージャーニーマップを作成する際は、ペルソナ設定には「企業」と「個人」の両方が必要です。B2Bビジネスにおけるカスタマージャーニーの特徴をB2Cビジネスと比較してみましょう。複雑性が高いために、ペルソナやフェーズを細かく分解するなどの対応が必要です。
例えば、ソフトウェア導入のカスタマージャーニーを作成しようとすると以下のようなステージに分けて、顧客接点や勘定変化、対応策を深掘りしていきます。
認知: 業界セミナーやウェブ広告を通じて製品を認知。
評価: デモンストレーションやトライアル版を通じて製品の評価を実施。
決定: 経営陣と技術担当者が協議して最終決定。
導入:導入トレーニングとサポートを提供し、スムーズな運用開始をサポート。
一方で、事務用品の購買など単純な業務では、複雑なカスタマージャーニーを構築する必要はないと考えられます。購入プロセスが単純で、コストや効率が主な決定要因となるためです。だからこそ、自社のビジネスに合ったカスタマージャーニーマップの作成が重要なのです。
まとめ
本書では、カスタマージャーニーの重要性とその具体的な作成方法について解説しました。カスタマージャーニーは、顧客の行動やニーズを深く理解し、効果的なマーケティング戦略を構築するための強力なツールです。それらをChatGPTを利用することで、よりスピーディーに対応することができます。カスタマージャーニーの作成と実証を通じて、顧客の本質的なニーズに応える戦略を立てましょう。
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出典:加藤 希尊『はじめてのカスタマージャーニーワークショップ「顧客視点」で考えるビジネスの課題と可能性(MarkeZine BOOKS』