マーケティング

カスタマージャーニーとは?(2)カスタマージャーニーの作り方|パーセプションチェンジの全行程と判断指標

カスタマージャーニーの作ってみようと思っても、これまでのマーケティングプランとどう違うのか?何から始めて良いかわからないという方もいるのではないでしょうか。

カスタマージャーニーの作り方は大きく次の5つのステップに分かれます。

  • STEP①:マーケティング目標の設定
    カスタマージャーニーを作成して何を獲得したいのか?いわゆるマーケティング目標を決定します。
  • STEP②:ターゲットとニーズを特定する
    マーケティングの基本業務である、どんなニーズを持っているどんな人たちかを決めます。
  • STEP③:スタート地点とゴール地点を決める
    顧客の心理、態度を顧客の言葉で表現したパーセプションでスタート地点とゴール地点を規定します。
  • STEP④:全体行程を描く
    スタートとゴールを決めた後は、途中の通過点を決めていきます。もちろんここでも行動や概念ではなく、パーセプションで規定します。
  • STEP⑤:遷移指標を決める
    マーケティングオートメーションに落とすためには、自動的に次の行程への移行を判断するためパーセプションチェンジ終了の指標を策定します。

STEP①〜④をパーセプションチェンジを基準に策定した後、STEP⑤でパーセプションチェンジの意向を判断するための遷移指標を策定します。この記事では、メインのフレームとなるこれら5つの手順について解説していきます。

STEP①:マーケティング目標の設定

まずはマーケティングの目標を設定します。伝統的マーケティングでは売上や獲得件数といった販売成果が目標となることがほとんどでしょう。

多くの場合、経営層や事業責任者によって目標が決定されます。

1to1マーケティングにおける目標設定のポイント

1to1マーケティングにおいても基本は変わりませんが、顧客との長期的な関係を想定するため、短期的な成果を目標とすることは相応しくありません。

また、一人ひとりと時間をかけ継続的に対話を行う必要があるため、コミュニケーション活動に見合う大きな対価が必要です。スーパーやコンビニなどで数百円で購入できる商品では1to1マーケティングは不向きです。

1to1マーケティングが活きる分野としては、下記のような購入金額または購入後のコストや投資が高く検討期間に時間がかる分野が当てはまります。

  • 購不動産、高級自動車
  • 保険、化粧品、健康食品
  • 塾、大学、ビジネススクール
  • BtoB商材
  • 企業の採用活動 など

人を視点としたライフタイムバリュー

ライフタイムバリュー(Life Time Value)とは、「顧客生涯価値」と呼ばれる指標です。1人または1社の顧客と取引の開始から終わりまで(顧客ライフサイクル)の間に顧客から得られる利益の総額を表します。

CRMではLTV最大化といった言葉を使い、長期の優良顧客獲得がマーケティングの目標になります。自社商品の愛用者でありかつ自社商品の良さを他の人に推奨してくれる人であるプロモーター、あるいはアンバサダーの獲得・育成が最終獲得目標となることもあります。

低価格商品は1to1マーケティングに不向きではありますが、企業ブランディングの観点では1to1マーケティングが必要です。企業のファンとして、商品選択の際に好意的な選択をしてくれる、他人にも推奨してくれる顧客の獲得はマ ーケティング目標となるでしょう。

目標を数値化する

マーケティングの目標設定など当然だと思われるかもわかりませんが、多くの予算と人を投入しているにもかかわらず、部署やメンバー間で目標が明確に共有されていないことは多々あります。

目標が不明確でありブレていくと判断にもブレが生じます。「目標達成のため」というシンプルな議論が社内調整や社内の忖度により議論がすり替わることさえあります。このようなことを避けるためにも数値化された目標設定=KGIが必要です。

どのような人を何人獲得するというようにKGIとして数値化し、達成のためのKPIを決め、PDCAを回しながら目標達成度合いを常にチェックしましょう。

目標設定の事例

【事例①】

  • 対象:高額商品/BtoB商材
  • 目標:獲得件数
  • KGI例:年間獲得件数 10万件

【事例②】

  • 対象:長期間の購買行動を期待する商品/企業
  • 目標:長期優良顧客の獲得
  • KGI例:年額100万円以上かつ、3年以上継続の顧客獲得 5万件

【事例③】

  • 対象:学校/ビジネススクール
  • 目標:優秀な学生獲得
  • KGI例:年間入学者数 1000人

STEP②:ターゲットとニーズを特定する

続いてもマーケティングの基本戦略、ターゲットとニーズを規定していきます。情報収集・分析を行い、市場の変化を見極め、時代・社会の風を読み、自社の強味が最も力を発揮する道を模索することで、勝算が高いと思われるターゲットとニーズを探し出すします。さらにライバルの力や動きも考慮しなければなりません。

これらを踏まえたうえで、特に1to1マーケティングの設計図であるカスタマージャーニー作成に重要な3つのポイントをおさえましょう。

ターゲットの規模感

アプローチすべきターゲットが何人くらい存在するかボリュームを確認します。

規模が十分でなければ、例えアプローチがうまくいったとしても、目標には到底届かないということが起こります。

デジタルでの施策ではターゲットを絞り込んだ訴求ができます。テレビ広告を主とするマスマーケティングでは100万人/1000万人単位のボリューム感が必要になりますが、デジタルの施策を想定したマーケティングでは1万人単位、10万人単位など、ターゲットのボリュームが小さくても成果に結びつく顧客層の割合は高くなります。

競合の存在

自社と顧客の関係だけを描いたカスタマージャーニーは絵に描いた餅です。顧客側からすると自社の多くの選択肢の中のひとつにすぎません。

ターゲットとニーズを規定したら、その人から自社や競合がどのように見えているかを考える必要があります。

競合の存在により顧客獲得が難しいと考えられるなら何らかの仮設の変更が必要です。ボリュームが小さく旨味が少ないターゲットであっても、強いライバルが不在のターゲットや少数に絞れば勝算があるターゲットに絞り込んだ方がいいでしょう。

ペルソナ化

「ペルソナ(persona)」とは商品・サービスと利用する典型的なユーザー像のこと。ターゲットやニーズをよりリアルに規定するためペルソナ化が有効です。

名前もあり、年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、趣味など、実際に実在している人物のようにユーザー像を描いていきます。

ペルソナ化するメリットは以下の3点です。

  1. アプローチする相手をリアリティのある人間として把握できる
  2. 相手があたかも目の前にいるような状況により、施策のアイデアが出しやすくなる
  3. 自社商品と直接関わりのないことまで描くことで、意外な突破口を発見させてくれる

マーケティングオートメーションに落として自動実行させるには、構造はできるだけシンプルにすべきです。そのため代表的なターゲット像をまずひとつペルソナ化しましょう。

どうしても必要であれば複数のペルソナを作成してもかまいませんが、実行面を考えるとペルソナの作成は多くてもは2~3まででしょう。また、データがなければ過去の経験から実在する人を想像しながら、具体的な人間として社内のメンバーが納得できる仮説のペルソナを設定できれば十分です。

STEP③:スタート地点とゴール地点を決める

マーケティング目標とターゲットが決まれば、カスタマージャーニーのスタート地点とゴール地点を決めます。

スタート地点の規定

スタート地点はターゲットの現在地点。ペルソナの現状です。概念や現状でなくパーセプションで規定します。もし悩んでしまったら、ターゲットになりそうな人から直接話を聞いてみましょう。

スタート地点では、ターゲットやペルソナの規定が十分だったか?と振り返って確認することが大切です。

対象商品や商品カテゴリー全体に対してどんなパーセプションを抱いているかを記載し、自社商品に対してどのようなパーセプションを持っている人を狙うのか、ターゲットを選ぶ時の重要な論点です。

ゴール地点

スタートを決めたら次はゴール地点です。

目標設定した内容をパーセプションに置き換えます。エンゲージ型のマーケティングでは「買う」「契約する」が必ずしもゴールにはなりません。「買った後」「契約した後」も顧客との関係は続きます。

昨今のソーシャルメデイアの普及により、利用者による口コミのインパクトが大きくなりました。多くの人が商品・サービスを購入する前にネット上の口コミや記事を確認しているのではないでしょうか。

特にネット上に否定的なコメントが溢れることになると、企業努力で積み重ねてきた信頼感や好感といった企業にとっての財産が失われることになります。

購買後も顧客との良好な関係を築き、好意的口コミの発信者になってもらうことがマーケティングの重要な課題となっています。

ゴール地点のパーセプションは「契約しよう」という決断以外にも、商品やサービスに対して満足した結果「他の人に紹介しよう」としてもいいでしょう。

STEP④:全体工程を描く

スタート地点とゴール地点が決まればカスタマージャーニーの全行程を設計していきます。ただし、企業視点ではなくあくまでも顧客一人ひとりの視点に立って仮説を立てていきます。

想起集合に入る

想起集合とは、何か買いたい、何かしたいと思った時に頭の中に想起される選択肢のことを言います。まずは、自社商品が想起集合のひとつとしてインプットされる必要があります。

「〇〇があったな」「〇〇を調べてみよう」などのパーセプションで表現すると良いでしょう。

想起集合に入った顧客は、見込顧客(リード)と位置づけます。

興味の継続・深化させる

見込み顧客は選別行動を進め、さらなる情報の取得を求めきます。その過程でさらに興味を持つ商品と逆に興味を失う商品に分かれていきます。

慎重に検討する商品ほど情報収集する期間が長くなる可能性があります。検討期間が長いからといって見込み顧客を放っておくと、競合商品に顧客を奪われるか、顧客の関心や購入意欲が失われていくかもしれません。

そこで何ヶ月、場合によれば何年間も興味を途切れさせないコミュニケーション=リードナーチャリング(見込顧客育成)が必要になります。

最有力候補に残る

競合と比較検討される工程です。ここでは比較検討されながら最有力候補に残ることを目指します。顧客の興味関心のある情報提供のほか、競合との違いや優位性を伝える必要があります。

商品情報の他に、自社商品の利用者体験談や導入事例など、顧客の利用シーンや導入メリットが具体的にイメージできる情報を準備しましょう。

本気で「買いたい」「必要だ」という気持ちにさせる

競合との差別化、優位性の提示だけでなく、本気で今買いたい必要だと思ってもらうにはどのようなパーセプションを獲得しないといけないか、カスタマージャーニー作成時にしっかりと策定しなければなりません。

購入金額が高い商品の場合、いざ購入・契約となると躊躇してしまうものです。そこで、無料見積もりや無料サンプル、無料体験など、「いつか買いたい」から「今買いたい」にパーセプションチェンジさせるための施策が必要になります。

最後の一押し

クロージングと呼ばれる工程です。契約獲得を目的として営業部門やコールセンター部門が担当することが多いと思います。

この工程の顧客は購入・契約の可能性の高い見込顧客として「ホットリード」とも呼び、「今すぐ〇〇を買いたい」といったパーセプションになります。

以上がカスタマージャーニー作成の基本工程です。

もちろんいくつかの行程を飛び越えて進むこともありますが、一人ひとりの見込顧客が今どの行程にいるか判別できていれば施策実行上は問題ありません。

そして、契約獲得後もファン、プロモーター、アンバサダー等と呼ばれる自社へのロイヤリティの高い理想の顧客の育成・創出に向けてさらに努力が必要です。

STEP⑤:遷移指標を決める

カスタマージャーニーを描くことで、マーケティング施策のどの行程が不十分かということが浮き彫りになり、それにより次のマーケティング課題を特定できるようになります。

さらに、遷移指標を策定することで進捗速度の異なる顧客がどの行程にいるのかを判断できるようになります。顧客の現状を把握することで、その顧客に対してどんな施策が有効かが判断できるようになります。

遷移指標とは

ひとつのパーセプションチェンジが終了し、次のパーセプションチェンジに入ったこと判断するために遷移指標が必要です。マーケティングオートメーションに活かすために重要なことは、遷移指標は自動的に計測可能な行動データでなければならないということです。

遷移指標となるデータ例

  • クッキー取得
    自社ウェブサイトを訪問した証。
  • 自社サイト訪問回数・頻度・滞在時間
    自社商品への興味関心の高まりの証。
  • 閲覧ページ/動画閲覧
    自社商品のどの点に興味を持っているか等、購買意欲の高まりの証。
  • 広告、メール、アプリなどへの反応
    自社商品への関心の高さの証。
  • 流入検索ワード、流入元
    検索意図により、商品選択行動の進展、購買意欲の高まりの証となる。
  • 個人情報獲得
    クッキー獲得より一段高い関心の高まり、購買意欲の高まりの証。
  • 特定行動捕捉(ホットリード)
    見積請求や無料お試し、営業マンとの商談予約などの行動は、購買プロセスの最終段階に入ったことの証に。
  • 位置情報データ
    来店やイベント参加など、実際に足を運んで来てくれたことの証。
  • 購買データ
    BtoBやECなどでは確実に把握できるが、他社による店頭販売に依存している場合は、何らかの形で成果の証が必要になる。
  • ソーシャルメディア行動(エンゲージ)データ
    いいね、投稿、シェアなどから、ロイヤリティ度合い、ファンド愛の証になる。
  • 自社コミュニティ行動(エンゲージ)データ
    オウンドメディアなどによる参加行動データ。ロイヤリティ度合い、ファンド愛の証。

まとめ

カスタマージャーニーを作成するにあたり、全体の流れを確認してきました。

目標設定、ターゲットとニーズの特定など、マーケティングの基本的な取り組みからカスタマージャーニーの行程を描き、パーセプションチェンジを判断する遷移指標を策定する。

全体から顧客個人のパーセプションと自動計測可能な行動データの取得まで描くことができれば、カスタマージャーニーの骨組みは完成です。

出典:
小川共和『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』クロスメディア・マーケティング(2017)

芝先 恵介

芝先 恵介

外資系業務ソフト会社より、仲間4人とともに2002年独立し代表就任。ウェブのシステム開発、広告代理店を始める。2013年同社を売却。 2014年からフリーランスでスタートアップ、大企業の新規事業立ち上げ支援を開始。2016年に訪日外国人×地方創生を行う株式会社トラベルテックラボを大学院の仲間と設立。その他、大学等のマーケティング・経営戦略の非常勤講師や、公益財団法人大阪産業局 あきない経営サポーター、DXアドバイザー、独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、エンジェル投資家など

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