カスタマージャーニーの作成方法に関して、全体の流れは「カスタマージャーニーとは?(2)カスタマージャーニーの作り方|パーセプションチェンジの全行程と判断指標」で解説しました。
パーセプションチェンジの内容と次の行程に移行した証となる遷移指標が決まった後は、利用するメディアやツールなどの手法の策定と具体的なコンテンツが必要です。
短期的な施策ではなく見込顧客や顧客との長い関係を想定した場合では、カスタマージャーニーの行程により取得している顧客データが異なるため、選択できる手法は限られる場合が多くなります。
そのため手順として、まず選択できる手法を考え、その後にコンテンツを考えるのがおすすめです。
この記事では、代表的な手法である「デジタル手法」「リアル手法」「マスメディア手法」の特徴を確認したうえで、コンテンツ企画のポイントを解説します。
コンテンツ施策:3つの手法
パーセプションチェンジを起こすためには、どんなコンテンツをどのような手法で伝えるかを考える必要があります。
コンテンツを伝えるための手法は、「デジタル手法」「リアル手法」「マスメディア手法」に分けられます。
顧客情報などのデータの有無により選択できる手法は異なります。それぞれの特徴を理解したうえで、パーセプションチェンジを起こすために最適な手法を考えていきます。
デジタル手法
①データ(顧客情報)が取得できていない場合
アウトバウンド型とインバウンド型があります。
アウトバウンド型は、企業から顧客にアプローチを行い、存在や価値を伝えることで、商品/サービスを記憶してもらい価値を評価してもらうことで購入候補に入ることを目指します。インバウンド型は、顧客に気付いてもらう仕掛けを作ることで、顧客の方から企業へ何らかのアプローチを促します。
- アウトバウンド型
顧客情報がまだ何も取得できていない場合の手法の代表はウェブ広告です。ディスプレイネットワーク広告、DMP、フェイ スブック広告・ツイッター広告などです。ターゲットを細かく分類でき、ある程度特定することができるという点がマスメディア広告との違いでありウェブ広告の特徴です。またウェブ広告は出稿すると即座に反応・効果がわかるため、運用を前提とした専門性や継続的なPDCAが求められます。
- インバウンド型
代表的なものはコンテンツマーケティングです。ターゲットが関心を持ちそうなコンテンツを出し続け、検索やリンクを通じて自社の存在に気づいてもらい、顧客からアプローチを待つ手法です。コンテンツに力があれば広告費をかけることなく集客ができ、ストック型の資産として効果を発揮し続けます。検索連動型のリスティング広告もインバウンド型の広告手法です。
②クッキーが取得できている場合
自社サイトに一度でも訪問されるとクッキー(ファーストパーティ)が取得できます。その場合の手法としては、リターゲティング、リコメンド、ウェブサイトパーソナライズなどです。
どのような関心を持ち自社サイトに訪問した顧客なのか、ウェブ解析により判明させ、興味関心に沿ったコミュニケーションを行います。
ウェブパーソナライズはマーケティングオートメーションの得意技です。メインのビジュアルやトップページバナーを相手によって変更する、相手によって違うポップアップを出させるなどのカスタマイズが可能です。
③個人情報が取得できている場合
個人情報が取得できていレバメールやスマホアプリプッシュ配信、LINEビジネスコネクトなどの手法が可能です。キャンペーンやアンケート、セミナー、カタログ・資料請求、名刺交換などにより見込顧客の個人情報を取得します。
ただし、顧客は朝から晩まで膨大な情報に接しています。その99%以上の情報は見向きもされず棄てられています。情報をちゃんと受け取ってもらうためにも、嬉しい情報、ためになる情報、ワクワクする情報となっているかどうか、相手側の視点で検証しましょう。
リアル手法
①データ(顧客情報)が取得できていない場合
マーケティングの施策では古くから行われてきたプロモーションと呼ばれることの多い施策です。リアルならではのインパクトがあれば、深い印象や忘れることのできない記憶を残し、長期間にわたった揺るがないパーセプションの形成も可能です。
ターゲットへのリーチという点では、デジタル手法やマスメディア手法に劣ります。そのためカスタマージャーニーの後半、自社商品に興味を持っていることが判明している相手に対する手法としてより効果を発揮します。
②個人情報が取得できている場合
電話やダイレクトメール、見込顧客リストに基づいたイベントへの招待、営業マンとの商談など、伝統的なコミュニケーション手法です。営業マンやコールセンターのスタッフが顧客と直接会話することは契約獲得効果が最も高い手法と言えます。
人件費という高いマーケティングコストが必要となるため、カスタマージャーニーの後半、顧客獲得の最後の行程で効果を発揮します。見込顧客とだけ商談することで、営業マンの無駄な工数がなくなり少人数で最大の成果をあげることが可能になります。
マスメディアの手法
テレビ広告などは、多額の費用がかかる、買う可能性のない人にまで広告してしまう無駄が多い、広告の時間が極端に限られるため僅かな内容しか伝えられないなどの弱みがあるものの、潜在顧客となるターゲット層の80%といった人たちに短期間で知ってもらうことが強い競争力となる場面では絶対的価値を発揮します。
また、安心感・信頼感を得てより多大な潜在顧客を見込顧客としたい場面でも価値を発揮します。カスタマージャーニーの最初の行程でこのような場面が発生することもあるでしょう。
力のあるコンテンツを企画する
コンテンツを企画する際に最も重要なポイントはオリジナル性です。
顧客は一日中多くのコンテンツに接しています。ほとんどのコンテンツは無視され記憶されることもありません。コンテンツは「見てもらえない可能性が高い」という想定で考える必要があります。
上手くいっている他社のコンテンツと同じことをするのではなく、別の新たなコンテンツを考えることが基本スタンスになります。
コンテンツ企画の基本
「見てもらえない可能性が高い」という前提に立ちコンテンツ考えるポイントは「顧客心理の洞察」と「驚きのあるアイデア」です。
顧客心理の洞察
ターゲットにとってニーズが現在いかに満たされてないか、仮に満たされた場合にどれほど嬉しいかなどまで洞察し「無視できない」「話を聞いてみたくなる」ようなメッセージを発見します。さらに自社や競合もまだ取り上げていない視点が入っている必要があります。
驚きのあるアイデア
オリジナルにこだわることでコンテンツに接した人に驚きをあたえます。さらに、顧客心理を捉えたこれまで見たこともないコンテンツは、驚きとともに思考を一瞬立ち止まらせる力があります。
良いアイデアがなかなか出てこないと感じても、まずはアイデアを出す行為を続けていきましょう。アイデアを出すことで、アイデアの良し悪しに興味がわき、アイデアの良し悪しを判断する目を養うことができます。
相手に合わせてコンテンツを企画する
1to1マーケティングは異なるさまざまターゲットに対して、それぞれに適したコンテンツを訴求することができます。
顧客の数だけコンテンツを変えることも可能ですが、現実的には2〜3パターン(多くて5〜6パターン)のコンテンツを相手によって打ち分けるのが現実的でしょう。
ターゲット別コンテンツ
属性や個性は違っても対象商品/サービスへのニーズや期待する価値が同じならコンテンツは同じでかまいません。
一人ひとりの違いに着目しすぎるとコンテンツは果てしなく増え続けます。たくさん作った割には見合う効果がないといったことも考えられます。
カスタマージャーニーの行程別コンテンツ
同一人物であっても、カスタマージャーニーの行程での情報量や体験によって欲しい情報は変化します。
購入後のコンテンツ
購入後の主なマーケティングの主な課題は、「離脱阻止」アップセルやクロスセルで「一人当たりの利用金額を上げる」「他の人への推奨」などです。
商品/サービスの購入後は、十分に利用してもらうための現実的な課題解決のコンテンツが主となります。使い方の解説や継続利用による特典、コミュニティ運営などが代表的なコンテンツになります。
コンテンツの途中変更
コンテンツは、行程間・行程途中でも柔軟に変更できるようにしておきましょう。一人の人間の中には異なるニーズが存在するものです。その時の状況や気持ちによって必要とするコンテンツは異なってきます。
最近ウェブサイトのどのページを見ているか、どのメールに反応するようになったなど、それまでと違ったコンテンツに反応するのであれば、新しいコンテンツに切り替える必要があります。
KPIの策定
ここまでコンテンツの手法と作り方について確認してきました。最後に、マーケティングを実行するためのPDCAの中核となる指標、KPIについて確認しましょう。
顧客獲得が目標の場合のKPI
顧客獲得が目的の場合、KPIとなるのは見込顧客の「獲得数」と「獲得単価」です。
メールアドレスや連絡先などの顧客の個人情報やクッキー獲得も含まれます。カスタマージャーニーでは、契約・購買という遷移指標はKGIにもなり、クッキー獲得、個人情報獲得、ホットの見込顧客獲得(=送客数)等の遷移指標がKPIとなります。
また「獲得単価」は、顧客あるいは見込顧客を獲得するのに必要になったコストです。予算の範囲内で最大の効果を出すためにも、獲得数をできるだけ上げ、獲得単価をできるだけ下げる努力が必要です。
長期優良顧客・上顧客育成、ファン育成が目標の場合のKPI
個人情報と購買データが繋がっていれば利用金額・頻度や継続利用年数を使い、優良顧客・上顧客などの階層グループに分けて、それぞれの階層の獲得数がKPIになります。また継続利用が前提のサービスであれば「離脱数/離脱率」が重要なKPIとなります。
購買行動を指標にしないファン育成マーケティングでは、コミュニティへの登録数がKPIとなります。さらにファンの度合いを示す指標として、最低月1 回は何らかの参加行動をとっている、賛同や共有のクリックをするだけではなくコメントを書いて投稿しているなど、企業とのつながりを示すエンゲージメントの計測が有効です。
まとめ
当然ですが、カスタマージャーニーやコンテンツを作ることが目的ではありません。ターゲットとする相手に振り向いてもらい、パーセプションチェンジを促し、目標とする行動に移してもらわなければなりません。
マーケティングオートメーションを十分に活用するためにも、カスタマージャーニーの各行程での、顧客の状態・状況に応じた適切な手法とオリジナルで力のあるコンテンツ作りが大切です。
出典:
小川共和『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』クロスメディア・マーケティング(2017)