顧客体験の連続として表現され、ゴール地点に向かって顧客体験をスムーズに進めるために、企業が行うべきことを浮き彫りにします。
マーケティングだけでなく、システムの再構築、組織体制の変更・刷新まで引き起こすほど、カスタマージャーニーを作成することはとても有意義なことです。
最近では各社からさまざまなマーケティングオートメーションツールが提供されています。しかし、ツールを導入しただけでは期待通りの成果を出すことは難しく、設計図としてカスタマージャーニーを描かなければなりません。
さらに、シナリオに則して顧客に新たな行動を起こす動機となるコンテンツを提供することが大切です。
この記事ではカスタマージャーニーの役割と作成のポイントついて解説します。
カスタマージャーニーの設計方法
マーケティングオートメーションやカスタマージャーニーが生まれる以前からマーケティングの設計図は存在しました。
では、伝統的なマーケティング手法とカスタマージャーニーによる設計方法にはどのような違いがあるのでしょうか。
伝統的マーケティングのコミュニケーション設計
マーケティングの設計図の代表的なものに「4P」があります。
マーケティング戦略上のフレームワークとして「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Promotion(プロモーション)」、「Place(流通≒チャネル)」の頭文字をとったものです。
「4P」でいうところの「Promotion(プロモーション)」が販売促進政策のコミュニケーションという位置付けでカスタマージャーニーにあたります。
伝統的マーケティングのコミュニケーションの特徴
一般的にキャンペーンと呼ばれるマーケティングコミュニケーションです。
2~3ヶ月程度、メディア・施策の集中投下により短期で販売成果を上げる方法であり、キャンペーンやブランディングのコミュニケーションとして実施されます。
最大の特徴は期間限定という点です。キャンペーンを実施する時期やタイミングは企業が決めます。マーケティング実施する時期が決まっていることが伝統的マーケティングの大きな特徴です。
1to1マーケティングのコミュニケーション設計
匿名の集団をターゲットとするマスマーケティングに対して、1to1マーケティングはある特定の個人(時にはクッキー)をターゲットとするマーケティング手法です。顧客「A」「B」「C」…それぞれの状況に応じてコンテンツや実施するタイミングが異なります。
過去に収集したデータから顧客によって配信するコンテンツやタイミングを変えていきます。情報を収集し、相手によって施策のコンテンツを変え、実施する時期をコントロールします。
1to1マーケティングのコミュニケーションの特徴
なぜ、このような面倒なことをするのでしょうか?
必要とされない情報を無理やり届けても見てはもらえず、逆に嫌悪感を抱かれることもあります。さらに状況も刻々と変化する中で顧客が必要とする情報も変わっていきます。
一人ひとりによって異なる情報ニーズを察知し、異なるタイミングで変化する情報ニーズに合わせたエンゲージメント型のコミュニケーションが1to1マーケティングのコミュニケーションの特徴です。
企業が自分の都合でマーケティングするタイミングを一方的に決め、一斉に情報発信する伝統的マーケティングの設計図ではなく、 一人ひとりによって変化する情報ニーズに合わせて、顧客が欲しい「タイミング」「必要とする」情報を届けられるようにするための設計図がカスタマージャーニーなのです。
カスタマージャーニーとパーセプション
マーケティングが獲得したい成果には、「販売数」「契約数」「売上金額」「 顧客数」「ブランドイメージ」などがありますが、マーケティングコミュニケーションの成果は、望ましいパーセプションの獲得です。
パーセプションとは、知覚、認識、物の見方を意味する言葉です。客観的な事実ではなく、それぞれが自らの経験や価値観に従って感じたり判断した結果の印象や評価など、商品や企業に対して抱いている気持ちのことです。
既に顧客が抱いている自社への認識=パーセプションを望ましいパーセプションに変えること、つまりパーセプションチェンジがマーケティングコミュニケーションの成果となります。
パーセプションチェンジの連鎖
お伝えしたとおりカスタマージャーニーは顧客のスタート地点からゴール地点まで一連のプロセスを表現したシナリオ、マーケティングの設計図です。つまり、顧客のパーセプションチェンジの連続的な繋がりがカスタマージャーニーとなります。
パーセプションチェンジの事例
整腸作用に良い健康食品を提供する企業の場合、体調不良を感じるターゲットが自社の製品を購入してくれることがゴールですが、健康食品などは長期間買い続ける商品のため「体調不良(お腹の調子が悪い)」から一気にゴールである自社製品の「購入」に至ることは少なく、慎重に検討してから購入される場合がほとんどでしょう。
そのため自社製品の存在を知ってもいきなり買おうとはせず、詳細に情報収取し、他社の商品と比較しながら、まずは無料の試供品で体験してみるというプロセスを取ることが一般的です。
このような、時間をかけてしっかり検討されてから契約に至るといったプロセスを経て購入される製品は、カスタマージャーニーが設計図として必要になる代表的なケースです。
コンテンツと手法
カスタマージャーニーの一連のプロセスの中で目標とするパーセプションを決めた後、それら実現させるための施策=「コンテンツ」と「手法」が必要です。
コンテンツは言うまでもなく伝える内容もしくは表現物そのものであり、手法はメデイアやチャネルなどコンテンツを伝える方法のことです。
手法はその時点で獲得できている顧客データによって実行できる選択肢が限らてきますが、コンテンツに答えはありません。マスメディアや街中のメディア、ウェブサイトやソーシャルメディア、メール等、世の中には処理し切れないほどのコンテンツが溢れています。
その中から顧客が見るに値すると感じ、パーセプションチェンジを促すコンテンツには驚きのあるアイデアが必要になってきます。
パーセプションチェンジと行動
カスタマージャーニーの構造を設計するだけでも有意義ですが、マーケティングオートメーション に落とせる設計図にするためには、顧客の行動把握が不可欠です。
顧客管理システムの導入を検討している場合は、例えば以下のような流れが予想されます。
- 顧客管理の課題を認識する
- 課題解決に関する施策を探す → WEBサイトを検索
- A社のサービスに関心を持つ → 資料請求
- 類似のB社C社の情報を収集 → 資料請求
- 資料や商談により比較検討 → A社またはB社に商談・見積もり依頼
- 仕様確認 → A社の無料アカウントまたはデモ申し込み
- 社内向けに資料を作成し決済 → 上司を説得し契約
カスタマージャーニーをマーケテイングオートメーションに落とすには、途中段階での行動把握が不可欠です。行動把握ができていなければ、次の行程に進んだか否かの判断ができないからです。
また行程によって施策が変わるため、次のバーセプションチェンジに移行したと判断するための指標が必要です。行動データによって自動的に把握できる判断指標(遷移指標)として、個人情報獲得データ、ログデータや購買データ等があげられます。
カスタマージャーニーの作り方については、「カスタマージャーニーとは?(2)カスタマージャーニーの作り方|パーセプションチェンジの全行程と判断指標」で詳しく解説しています。
顧客を動かすコンテンツ
企業のシナリオ通りに顧客が行動してくれる保障はありません。途中で他の方向に行ったり、検討を止めてしまうかもしれません。顧客に企業が描いた行程に近い形で行動を続けさせることができるのがコンテンツの力です。
単なる認知やイメージでなく、行動変化に結びつけるコンテンツを生み出すためには「顧客心理の深い洞察」「驚きのあるアイデア」が必要です。
顧客心理の深い洞察
ターゲットであるユーザーの商品・サービスへのニーズ、情報へのニーズ、購買行動やコンタクトポイント、ブランド認知や価値観に至るまで、ユーザーを研究する必要があります。
「顧客心理の深い洞察」は、最終的にユーザーがどうしても耳を傾けたくなるメッセージを発見することです。日々飛び込んでくるたくさんの情報の中から、どうしても耳を傾けてしまうメッセージを探し出さなければなりません。
驚きのあるアイデア
大事なことはアイデアを出すという行為を頻繁に行うことです。
特に分析業務中心で左脳ばかり使う傾向にある場合は、右脳左脳をバランスよく使用し、頭をフル回転させてアイデアを発案しましょう。
さらに、先程の「顧客心理の深い洞察」で発見したメッセージが、起爆剤となり驚きのあるアイデアを生み出す原動力になります。
コンテンツの作り方については「カスタマージャーニーとは?(3)マーケティングオートメーション導入の鍵!コンテンツを企画する」で解説しています。
顧客の言葉で表現する
カスタマージャーニーの主たる工程はパーセプションで規定します。
認知・理解・シェアと言った概念や、検索・来店・購入などの行動で規定せず、ターゲットとなる顧客や見込客が感たり発する言葉で表現していきます。
顧客の言葉で表現することは意外に難しく、顧客が使わない言葉や企業視点の言葉になっていないか注意が必要です。
顧客の心理をリアルに感じていなければ表現できず、顧客の言葉で表現するためには「顧客心理の深い洞察」が重要になります。
さらに、データや概念といった抽象的なものではなく、顧客にどう思って欲しいかというリアリティのある気持ちをベースに思考することで、アイデアが出やすくなります。
顧客の言葉でパーセプションを作成し、それらパーセプションチェンジのつながりでカスタマージャーニーを描くこと自体が、顧客を動かすコンテンツを企画するフレームとなります。
まとめ
顧客の体験という形でカスタマージャーニーを描くことで、自分たちの活動が顧客にとって不備や不満に満ちているかが露呈します。
そこからさらに踏み込んで顧客とのコミュニケーションをプランニングすることで、パーセプションチェンジの連鎖につながり、マーケティングオートメーションに活きるカスタマージャーニーを作成することができるでしょう。
出典:
小川共和『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』クロスメディア・マーケティング(2017)