この数年、マーケティングオートメーションという言葉がよく聞かれるようになってきました。マーケティングの考え方やアプローチ方法、ツールが日々進化し、多岐に渡る中で、活動の自動化や効率化を目指す流れがハイスピードで進んでいます。
日々のマーケティング業務が自動化されることで、新しいマーケティング施策に時間を割ける上に、業務の精度が向上し、売上増加も期待できます。
しかし、今後さらに拡大が見込まれるMA市場において、MAスペシャリストはまだまだ不足しています。本記事では、MAスペシャリストを目指す人に向けて、その役割や業務内容を解説していきます。
MAツールの選定
MAツール選定では、事業会社のビジネス分類とMAツールに求める要件を整理し、適切なMAツールを選定します。MAツールの入れ替えは多大なコストが掛かるため、最初に導入してしまったツールを仕方なく中途半端に運用し続ける事業会社も少なくありません。このため、事業目的や施策に適したMAツールを選定することがまず重要となります。
事業会社のビジネス分類や、MAツールの機能、導入実績やサポート内容、ライセンス費用などのポイントで選定していきます。
以下は、代表的なMAツールポジショニングマップです。
MA導入実装の4ステップ
それではMA導入実装に必要な4つのステップを順にみていきましょう。
ステップ1:環境構築
実装環境準備、セキュリティ設定、メール配信準備、顧客からの返信メールに対する処理や、配信可否管理(オプトイン、オプトアウトなどの管理)の準備をしていきます。
実装環境準備
社内向けのテスト配信を誤って実際の顧客に配信するなどのミスを防ぐため、開発環境と本番環境を用意し、利用するデータを分別します。
セキュリティ設定
IPアドレス制御、データ通信の暗号化、個別ユーザー権限の設定、顧客データの暗号化、操作ログの収集の設定を行います。
メール配信準備
メール送信元の証明となる送信ドメイン変更・認証、メール配信サーバー の評価を高めるIPウォーミング、大量配信を行うための|P追加を行います。
返信メール処理
顧客が変身を行った場合の設定を行います。
配信可否管理
顧客がメール受信を希望した場合・拒否した場合に、必ずメールが配信・ 停止されるよう管理・設定します。
ステップ2:顧客データの連携
MA施策で利用する顧客データを、事業会社の顧客管理システムからMAツールに連携していきます。顧客データをCRMのようなシステムで一元管理している場合と、複数の システムに分散して管理している場合があり、必要となるシステム一つ一つとMAツールの連携開発を行います
ステップ3:顧客データの抽出・更新
顧客管理システムで新規追加または変更された連絡先をMAツールの顧客マスタに反映し、全施策で共通して除外すべき顧客を抽出・更新します。
- 顧客マスタの更新
- 除外管理
- 配信可能顧客の抽出
ステップ4:各チャネルとの連携
ウェブサイト・アプリ・SMS・LINE・ウェブ広告・店舗・コールセンター・DMなどの各チャネルと連携していきます。連携実装において重要なポイントは、MAツールの顧客データ上の顧客IDと各チャネル管理ツールで管理されている顧客IDを照合する仕組みを構築することです。
MAツール導入の失敗しないポイント
導入前・導入時_導入後、それぞれのポイントを確認しておきましょう。
導入前
- 契約したけどやりたいことができない
契約内容やツールの仕様を確認し、ツール会社の営業の話を鵜呑みにせず、自分で理解するよう努めることが大切です。
- リリースが遅延しまくる
当初は支援業務の契約のみで進めていて、途中で個人情報取扱契約が必要なことが発覚し契約し直したり、専用ブースやPC機器の準備でリードタイムが増加してしまいリリースが遅延するケースがあります。その他、事業会社側の担当者がMAの知識がなく、設定内容の確認・承認ができず、やり取りや、手戻りが多発しスケジュール遅延につながるケースもあります。 - データ連携できなかった
MAはマーケティングツールのため、活用するのはマーケティング部門が中心になりますが、システム連携のためシステム部門の協力も欠かせません。ところがシステム理解が不足していたり、システム部門と調整したことがない担当者だと、プロジェクトの進め方やコミュニケーションにかなりの時間と労力が掛かります。MA活用が全社横断での重要な取り組みであることを経営層に理解してもらい、トップダウンでMA活用を進めるようなメッセージを発信してもらいましょう。 - 施策内容が決まらない
初めてMAに関わる場合、どのように施策を考えればいいかわからず、単発メールをオートメーションで送り続けるなどの単調な施策しか思い浮かばないことが多いです。ツール会社が提供するワークショップやセミナーに参加したり、支援会社に協力を仰ぎ、従来のマーケティング施策と新しいMA施策の融合を考えるなど、自分なりに勉強し知識や知見を高める努力が必要になります。
②導入時
- データ定義と実態の乖離でやり直し
導入作業を開始して初めて気が付くことはいろいろあります。特に多いのは、実データを確認したら連携できる状態でなかったり、連携開発が必要であったりなど新たな課題が見つかり、要件定義の手戻りが発生することです。データ取り扱い範囲の明示や実データの早期確認を進め、要件定義段階で問題点を明らかにしたいものです。 - 資料に力を入れすぎて開発工数がパツパツ
MAツール導入は手段であり、施策を実施できるようにすることに全力を挙げるべきですが、中には基幹システムの開発と同じように入念な設計、テスト、報告を求められることもあります。資料の更新に手間暇をかけることは無駄であることを理解してもらうことも、工数削減や効率化の観点から必要だと思います。 - 緊急対応が緊急じゃなくなる
MAはデータ連携が中心のツールですので、連携時のエラーや設定ミスなど、通常のシステムに比べてエラーは付き物とも言えます。エラーに敏感に反応することは大切ですが、対応プロセスを何も決めていないと、エラー発生の度に、一から連携仕様を確認するような手間と混乱が生じます。 - 停止するとリカバリが大変
例えばGWなどの大型連休、地震などの災害時にMAを止めようとすると、その後再開する際、誰に何を配信すればいいか調べるのが非常に大変です。MAを停止する場合は、シナリオごとで配信再開時に停止期間中の配信対象者に対して配信するかどうかを決めておくようにしましょう。
導入後
- 施策の評価ができない
MA施策のKPI自体は自ずと決まると思いますが、そのKPIをどう測定し、どう効果を分析、次に改善していくかを運用していく部分で困ることが多いです。施策開始後であっても、あらためて施策の目的や効果を定義し、他社の成功事例を勉強したり、時には支援企業のアドバイスを受けながら、効果検証方法を見つけてください。 - 組織横断的に活用できない
社内の組織が商品別やチャネル別などの縦割りのままだと、それぞれの部署でMAツールを入れたりMA施策を実施していたりすることもあります。横断的にMAを活用することで時間や費用も効率化されますので、部署間の連携を密にとれる会議体を設置したり、マーケティングを統括する組織を作ったり、横断的な知識・目線をもった人材を配置することが必要です。 - 運用が社内でうまくいかない
運用を考慮したコスト・人員計画になっているかを確認しましょう。運用するためには、社外に委託するためのコストと、社内人材を育成していく時間やリソースの両方を計画する必要があります。自社で何ができて何ができないかを考え、正しく支援企業を活用できると、MA運用もスムーズにいきます。
まとめ
MAスペシャリストへ向けて、これからのアクションが見えてきたでしょうか?
業務の幅も広く、専門的な知識を求められる仕事ではありますが、これからの時代にはなくてはならない存在です。ぜひ本記事で全体像を理解して、実務に活かしていただければと思います。
出典:
マーケティングオートメーション スペシャリストになるための教科書(マイナビ出版) 株式会社メンバーズ(福島信、鶴田純也、村上大典、廣瀬竜也、吉田隼)