フィールドセールス

チャレンジャーセールスモデルとは?「指導・適応・支配」で商談を変える方法

チャレンジャーセールスモデルとは、3つの能力を使い分ける営業手法です。顧客に新しい視点を示す「指導」、相手に合わせて伝え方を変える「適応」、価格交渉の主導権を握る「支配」です。

90社・6,000人以上の営業担当者を対象にした大規模調査から導き出されました。研究には4年をかけています。

営業を行動特性で5タイプに分けると、もっとも成果を出すのは「チャレンジャー」型でした。

本記事では、この手法の中身と、中小企業のBtoB提案営業に取り入れる具体的な方法を解説します。

チャレンジャーセールスモデルとは何か

チャレンジャーセールスモデルとは、90社・6,000人以上の営業担当者を対象にした調査から生まれました。成果を出す営業に共通する行動パターンを指します。

提唱したのは、マシュー・ディクソンとブレント・アダムソンの2人です。書籍『チャレンジャー・セールス・モデル』(三木俊哉訳、海と月社、2015年11月刊)にまとめられています。副題は「成約に直結させる『指導』『適応』『支配』」です。

調査では、営業担当者を行動特性から5つのタイプに分類しました。内訳は、チャレンジャーが27%、ハードワーカーが21%、リレーションシップビルダーが21%です。

残りはローンウルフが18%、リアクティブプロブレムソルバーが14%でした。四捨五入の関係で、合計は101%になります。数字はChallenger Inc公式サイトの調査によるものです。

タイプごとの特徴も異なります。チャレンジャーは、独自の視点で顧客のビジネスを理解し、成長の機会を築きます。ハードワーカーは人一倍努力し、粘り強くフィードバックを求めます。

リレーションシップビルダーは顧客から名指しで頼られ、時間を惜しまず尽くします。ローンウルフは自分の勘に自信を持ち、指導や型にはまることを嫌います。リアクティブプロブレムソルバーは、契約後も顧客の問題解決に力を注ぎます。

もっとも成果を出す層、いわゆる花形パフォーマーに占める割合を見ると、この序列は入れ替わります。花形パフォーマーの約40%はチャレンジャー型でした。

従来「営業に向いている」とされてきたリレーションシップビルダー型は、わずか7%にとどまります。この数字も、同じ調査によるものです。

顧客と良い関係を築くタイプより、顧客に新しい視点を示すタイプのほうが、実際の成果につながりやすいという結果です。チャレンジャー型の営業行動は、提案やクロージングの場面で力を発揮します。この役割を担うのがフィールドセールスです(フィールドセールスが担う提案・クロージング)。

中小企業のBtoB営業にも、そのまま当てはまります。担当者の数が少ないぶん、1人あたりの商談の質が売上に直結するからです。

5タイプの営業のうち、チャレンジャー型が全体の27%から花形パフォーマーの約40%へ割合を伸ばすことを示す円グラフ
出典: Challenger Inc公式サイトの調査データ

「関係構築型」営業が通用しなくなった背景

背景にあるのは、商品やサービスの差別化がしにくくなる「コモディティ化」です。機能や価格だけでは選ばれにくくなりました。

営業の役割も変わりました。商品を説明するだけでなく、顧客の課題そのものを一緒に解決する営業への対応が求められています。これを「ソリューション営業」と呼びます(顧客の課題を深く理解し、解決策を組み立てて提案する営業スタイル)。

似た営業手法に、ニール・ラッカムが提唱したSPIN営業があります。SPIN営業は、質問を重ねて顧客に課題を自覚してもらう手法です。チャレンジャーセールスモデルは、質問だけでなく営業の側から明確な視点を示す点が異なります。

この変化のなかで、顧客との関係を大切にするだけの営業は、複雑な意思決定に対応しきれなくなりました。前段のとおり、花形パフォーマーの多くはチャレンジャー型が占めています。

BtoBの商談は、担当者だけでなく複数の関係者が意思決定に関わります。関係を良くするだけでなく、意思決定の材料そのものを提供する営業が求められているのです。

顧客の購買行動そのものも変わりました。情報収集の手段が増え、顧客は営業と会う前に自分で調べを進めるようになりました。商談化までの導線をどう設計するかは、マーケティングの側でも問い直す必要があります(商談化までの導線を設計する記事)。

一方で、単価が低く、購買の意思決定が単純な商材では、この手法が過剰になることもあります。価格の安さで選ばれる商品や、即断即決の購入では、指導や適応にかける時間がかえって遠回りになりかねません。

コモディティ化からソリューション営業、複数の決裁者への変化を示すプロセス図

3つの能力「指導」「適応」「支配」

チャレンジャー型の営業には、共通する能力があります。「指導」「適応」「支配」です。

指導:気づいていない論点の提示

「指導」とは、顧客自身もまだ気づいていない課題や機会を、営業の側から示すことです。

原著で紹介されている家具メーカーの例では、営業担当者が顧客のオフィス環境について独自の知見を示しました。その結果、当初の要望とは違う什器の選び方を提案しています。要望を鵜呑みにせず、前提を問い直す姿勢が「指導」です。

私自身も、01STARTの代表として研修や導入支援を行うなかで、商談で同じ場面に何度も出会います。ある老舗企業から、多店舗展開にともなう経理業務の属人化を解消したいという相談を受けたことがありました。

先方の要望は、使っている会計システムそのものを完全に自動化することでした。

しかし実際のボトルネック(工程を妨げる一番の要因)は、システムではなく銀行側の対応状況にありました。私が確認した限りでは、フル自動化に対応できる銀行は当時ごく一部に限られていたのです。

私はこの制約を提案の初期段階で率直に伝えました。既存システムは残したまま、別のツールで一度データを整理してから取り込む、という二段構えの案を示しています。

出てきた要望を一度立ち止まって検討し、実現できる形に組み直して示す。これが「指導」の実践です。

別の商談では、決裁者から強い懐疑を示されたこともあります。生成AIで本当に新規事業のアイデアが出るのか、という疑問です。

言葉で説得を試みるより先に、その場でデモ(実演)を実施しました。実際にアイデアが生成される様子を見てもらうと、懸念はその場で解けています。相手の懐疑には、説明より実物を見せて応えるのも「指導」の一つです。

さらに詳しい実践方法は、シリーズ第2弾の記事にまとめています(「指導」の実践方法)。

適応:相手に応じた伝え方の使い分け

「適応」とは、話す相手の役職や関心に合わせて、伝える内容や順序を変えることです。

原著のビジネスサービス企業の例では、重要な商談の前に決裁者本人の目標や動機をあらためて確認しています。競合と同じ切り口ではなく、決裁者の関心に沿ったメッセージを組み立てて契約につなげました。

同じ提案内容でも、誰に何を先に伝えるかで受け取られ方は変わります。現場の担当者には運用のしやすさを、決裁者には投資対効果を伝えます。相手ごとに強調点を切り替える準備が「適応」の土台になります。

中小企業の商談でも応用できます。現場担当者と決裁者が同席する場面では、説明する順番を変えるだけで反応が変わることがあります。

たとえば見積書を送る前に、現場担当者向けには使い勝手を、決裁者向けには投資回収の見込みをまとめておきます。同じ提案でも、伝わり方が変わります。

支配:価格・意思決定における主導権

「支配」とは、価格交渉や意思決定のプロセスで、営業の側が主導権を握ることです。

原著の価格改定の例では、値上げを迫られた企業が顧客に製品の各特徴の優先順位を挙げてもらいました。その結果、実際には求められていなかった上位パッケージを標準仕様から外し、利益を改善しています。

値引き要求そのものを条件交渉の起点に変え、主導権を握り直す。これが「支配」の考え方です。

ただし、「支配」を使いすぎると、押し売りのように受け取られる恐れもあります。関係性を重視する業界や、長年の商習慣が根付いた取引先では、なおさらです。条件を組み替える提案の前に、まず信頼関係の土台を作っておく必要があります。

原著の価格改定の例のように、顧客自身に優先順位を挙げてもらう手順を踏むと、一方的な押し売りにはなりにくくなります。

さらに詳しい実践方法は、シリーズ第3弾の記事にまとめています(「適応」「支配」の実践方法)。

チャレンジャー型の3つの能力、指導・適応・支配を使い分けることを示す図

自社の営業に取り入れる最初の一歩

チャレンジャーセールスモデルは、フィールドセールスが商談の終盤で使う手法という印象を持たれがちです。実際に取り入れやすいのは、営業組織を工程で分業している会社です。THE MODELという考え方がこれにあたります(営業組織を4つの工程に分けるTHE MODEL)。

商談化の前段では、インサイドセールスが顧客の関心や課題の仮説を用意します(商談化の前段を担うインサイドセールス)。フィールドセールスは、その仮説をもとに「指導」を組み立てます。契約後の定着は、カスタマーサクセスが担います(契約後の定着を担うカスタマーサクセス)。

工程ごとに役割が分かれていると、どの場面で「指導」「適応」「支配」を使うかを設計しやすくなります。

明日からできることは3つあります。1つ目は、提案資料に顧客がまだ気づいていない論点を1つ足すことです。

普段の提案資料を見直し、業界動向や競合状況から気づきを1つ足してから商談に臨みます。目安として、10〜15分あれば準備できます。

2つ目は、相手に応じた説明の順番をあらかじめ用意しておくことです。現場担当者向けと決裁者向けで、話す順序や強調点を2パターン決めておきます。これも、15分程度で書き出せます。

3つ目は、値引き要求への回答パターンをあらかじめ決めておくことです。値引き額をその場の思いつきで決めるより、条件を組み替える案をいくつか用意しておきます。これも、30分ほどあれば数パターン書き出せます。

全員に一度に型を教え込むより、対象と場面を絞るほうが現実的です。まずは1人、1つの商談から試し、うまくいった型を横展開していきます。

効果を見る基準はシンプルです。狙った論点に顧客がどう反応したか、次の商談が動いたかどうかを振り返るだけで十分です。

明日からできる3つの行動と所要時間の目安を示す図

生成AIによる「指導」の準備コスト削減

「指導」の質は、商談前の準備の質に比例します。顧客の業界がどこに向かっているか、決裁者がどんな懸念を持っていそうかを、事前に仮説立てておく必要があるからです。

この仮説づくりに生成AIを使うと、たたき台を作る作業の負荷を下げられます。業界特有の規制動向や、決裁者の部門でよくある懸念点を仮説として書き出しておきます。それだけで、初回商談での「指導」の精度は変わります。

公開情報から顧客企業のペルソナ(想定する決裁者像)を作る手順は、生成AIで顧客ペルソナを作る手順にまとめています。

ただし、生成AIが作るのはあくまで仮説のたたき台です。実際の商談では、相手の反応を見ながら仮説を検証し、必要なら聞き方を変える判断が欠かせません。

準備の労力を減らせた分だけ、商談そのものに向き合う時間を増やせます。

「指導」「適応」「支配」は、特別な才能がなくても身につけられる行動です。準備の質を上げるところから、商談は変わっていきます。

チャレンジャーセールスモデルを自社の営業に取り入れたい方は、まずは自社の商談を振り返ることから始めてみてください。営業研修や導入の伴走支援、生成AIを使った準備の仕組み化まで、01STARTがまとめてご相談を受けています。詳しくは資料請求ページからお気軽にお問い合わせください。

生成AIを使うと商談前の準備にかかる時間を短縮できることを示す図
芝先 恵介

芝先 恵介

外資系業務ソフト会社より、仲間4人とともに2002年独立し代表就任。ウェブのシステム開発、広告代理店を始める。2013年同社を売却。 2014年からフリーランスでスタートアップ、大企業の新規事業立ち上げ支援を開始。2016年に訪日外国人×地方創生を行う株式会社トラベルテックラボを大学院の仲間と設立。その他、大学等のマーケティング・経営戦略の非常勤講師や、公益財団法人大阪産業局 あきない経営サポーター、DXアドバイザー、独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、エンジェル投資家など

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