マーケティングオートメーション

MAスペシャリストになるには?(3)MAのシナリオプランニングと効果測定について解説!

この数年、マーケティングオートメーションという言葉がよく聞かれるようになってきました。マーケティングの考え方やアプローチ方法、ツールが日々進化し、多岐に渡る中で、活動の自動化や効率化を目指す流れがハイスピードで進んでいます。

日々のマーケティング業務が自動化されることで、新しいマーケティング施策に時間を割ける上に、業務の精度が向上し、売上増加も期待できます。

しかし、今後さらに拡大が見込まれるMA市場において、MAスペシャリストはまだまだ不足しています。本記事では、MAスペシャリストを目指す人に向けて、その役割や業務内容を解説していきます。

MAツールとメール配信ツールの違い

まずMAツールとシンプルなメール配信ツールの違いを理解し、MAツールならではのコミュニケーションフローを理解しましょう。

シンプルなメール配信ツールなどを利用している場合、対象を定めて同一コンテンツのメールを1回送信するのみなどの単発的な施策が大半です。

一方、MAツールを利用する場合、顧客一人一人に異なるメッセージを届けたり、メッセージを受け取った顧客の行動、例えばメールの開封やクリック、ウェブサイトヘの訪問や商品購買などに応じて、さらに異なるコミュニケーションをとれるようになります。


MAツールを利用することを前提にした設計では、すべてのコンテンツ、ターゲットを1つの施策とする、コミュニケーションフロー全体を意識した設計から実装まで1つのシナリオに盛り込めます。

施策例

  1. 顧客に、あるメールを送信する(毎日新しいターゲットを選定する)
  2. メールに反応した顧客に別のメールを送信する、反応しない顧客には1.と同じメールの件名を変えて再送する(何回か繰り返す)
  3. 二通目のメールに反応した顧客に営業担当が電話する

MAツールでは施策全体をそのままツール上に設定することで、あとはすべて自動処理されます。顧客データに応じたコンテンツの出し分けや顧客の反応に基づく追加的なアプローチをツール上で操作でき、施策開始後の条件変更やパターン追加も容易なので、包括的にコミュニケーションフローを設計できます。

シナリオ設計

ここからはMA施策のシナリオ設計全体の流れを説明します。シナリオ設計を大きく分類すると、入口、出口、シナリオの3つからなります。

入口:シナリオの対象者を決める

施策の起点である対象となる顧客の条件を決めます。

  • セグメント:特定の軸によって顧客を分類する
  • ターゲット:セグメントの中から選定して対象を定める
  • トリガー:シナリオ対象になるきっかけ


トリガーとは顧客が“今”どのような行動を起こしたかを特定するものです。セグメント軸とは異なり、リアルタイム性を重視する行動情報になりますので、顧客が特定の行動を起こしたとき次に何をしてもらいたいのか、ステップが明確な場合に利用します。

 

出口:シナリオの目標を決める

施策の目標=ゴールを定めます。最終目標と中間指標をセットで考えます。

  • KGI:施策を実施した際の最終目標を決める
  • KPI:KGIを達成するため、プロセスの過程を計測する中間指標を設定する

シナリオの入口である対象顧客が決まったら、次はシナリオの目標を決めます。例えばまだ購入の見込みが低い顧客は商品・サービスへの関心の向上、一度購入した顧客にはリピート購入の促進などです。


例)月間売上100万円ある飲食店が、売上目標を今の2倍にしたい場合

 

シナリオ:コミュニケーション手段・条件・コンテンツを決める

入口・出口が決まったら、その入口と出口がつながるように、配信チャネルや顧客の反応、行動に応じた分岐条件、メッセージ内容を検討します。

  • チャネル:メール・LINE・SMS・電話などコミュニケーションの選定
  • One to One設計:経路(パス)条件を考える

One to Oneコミュニケーションに有効とはいえ、分岐条件を細分化しすぎると必要となるコンテンツ数も膨らみ制作リソースを逼迫するので、どこまでパターンを分別することに効果があるのか、あわせて検討するようにしましょう。またシナリオのペルソナは仮説であり、PCDAにより精度を高めていくことが前提になりますので、はじめは粗いメッシュで出し分けを行いましょう。

  • コンテンツ:ゴールに沿ったコンテンツの方向性を決める
  • 接触頻度:顧客に何回コミュニケーションを取るか決める
  • 終了:シナリオから離脱するタイミングを決める

必須とするべき終了条件

オプトアウト・サービス解約・受注・失注・KGI達成

配慮するべき終了条件

・苦情対応中・他の優先シナリオが対象・営業担当が直接フォロー

実際のシナリオ事例

【金融商品デビューシナリオ】

  • 概要:金融商品未経験者にオンラインで初心者向け講座を訴求し投資デビューへ誘う
  • 企業:証券会社
  • 目的:金融商品に興味のある新規顧客の取り込み
  • 対象:投資信託非保有者のうち初心者向けページに訪問した顧客
  • シナリオゴール:投資信託商品の口座開設

シナリオ1

A:閲覧ページのカテゴリにより分岐
B:数日以内に店舗に来店している場合、営業担当に通知、ない場合は商品案内メール配信C:次のシナリオに合流

シナリオ2

A:前シナリオでメール未開封の場合、ウェブサイトレコメンドで商品バナーを表示
B:開封あり未クリックの場合もウェブサイトレコメンドに連携
C:数日以内に口座や商品の申し込みをしていれば終了
D:申し込みしていない場合、ポイントが付くインセンティブの訴求

MA施策の効果測定

マーケティング施策効果を測定する際に重要な指標となるのはKGIとKPIです

設定のポイント

①定量化できる指標とする
人によって解釈が異なる目標では達成したかどうかの判断も主観的になってしまうため、定量化できる数値を指標とします。

②KPIとKGIに相関関係のある指標とする
相関関係がなかった場合、KPIは達成したにもかかわらず、KGIがかえって低くなる可能性があるためです。

例えば、女性向けの化粧品を販売しているECサイトのKGIに「売上」を置き、KPIとして「女性の訪問者数」と「男性の訪問者数」を設定したとします。それぞれ期間別に訪問者が増える施策を実施し、実際に訪問者が増加したとします。その際、「女性の訪問者数」が増加した際は「売上」が伸びたのですが、「男性の訪問者数」が増加した際は「売上」がほとんど伸びませんでした。この場合、「男性の訪問者数」は、訪問者を増やすという意味では相関関係がありますが、ターゲットユーザーではないためこのようなことが発生している一例となります。

MAでの効果測定

MAで実際に施策を実施した場合の効果測定には、次の3つのポイントがあります。

複数のメールや他チャネルでの接点を横断的に測定する

MAは顧客の行動に即して複数の施策が連続的に実行されるため、個々の施策の反応率のみではなく、施策全体で予測反応率を満たしているかを測定します。シナリオ全体のパフォーマンスを見ることが効果測定の大切な要素となります。

KPIに直接的に寄与した施策を特定する

MA施策は対象者が同一のKPIをもつ複数の施策やシナリオに該当する場合があり、いずれの施策がKPIに貢献したかを評価することで、改善対象を特定、効果の高い改善案に繋げていくことができます。

施策期間に対するKPI計測期間を決める

MA施策は複数の施策が実施されるため、施策の開始から終了をいつと定義し、その途中または終了後に発生するKPIをいつまで計測するべきかを決める必要があります。

施策開始・終了後から直接的な効果の有効期間

個々の施策(メールやアプリ、DMなど)により反応までの期間は異なり、これらが複数組み合わさったシナリオにおいては、その期間を個々に設定するべきか、シナリオ全体として反応期間を設定するべきかを整理します。どちらかのみが正解という訳ではなく、施策に応じて効果期間を定義することが大切になります。

商品・サービスに応じた適切な顧客の検討期間

一般的に人は購入金額が高いもの、商品やサービスそのものに金銭的な損害が発生するリスクがあるものは検討期間が長くなる傾向があります。(例:マイホーム)一方で、日用品などは即時に購入するケースが多いです。

商品を顧客が購入に至るまでにどのような経済的心理的ハードルがあるかを理解し、施策を行って反応を得たとしてもその反応からどれほどの検討期間を経て購入に至るのかを仮定検証しながら効果の定義を行います。

大量・複雑なデータ処理の実現性

これらの整理がついたとしても、実際は利用するツールやデータ状況などの環境に依存する部分があります。計測期間が長くなるほどデータ保有量・処理量が増えるため、自社のデータ分析環境によっては処理プログラムが動かないこともあります。その場合、計測期間を短くする、定点観測(周次や月次など)にする、取得している中間KPIを少なくするなど、データ処理量や回数の調整をします。

MA効果計測に必要な業務フェーズ

実施時期により、大きく3つに分けられます


分析に必要な計測データやダッシュボードは、施策を開始してから準備するのではなく、MA実装のデータ作業と同時に計測データの設計・処理をすれば効率的です。シナリオ設計時に効果測定のデータ定義も行うことで、期待する効果指標のデータが取得でき、成果を計れるということをしっかり理解することが大切です。

また、効果を見る対象者別でダッシュボードを作成する必要があります。

・経営者、部門長、部長など上層部:
短時間で概要を把握し適切な判断ができるよう「最も重要な情報」「重要な詳細情報」が8~9割を占め、時には「一般的な情報」は不要とすることもあります。

・MAスペシャリストなど現場の人達:
ターゲット別の深堀分析ができるよう「一般的な情報」を手厚くすることで改善や原因追及が可能なようにします。

次回

MAにおけるシナリオと、その効果検証のイメージを理解できたでしょうか?次回は、いよいよMAツールの導入についてみていきましょう。

出典:
マーケティングオートメーション スペシャリストになるための教科書(マイナビ出版) 株式会社メンバーズ(福島信、鶴田純也、村上大典、廣瀬竜也、吉田隼)

芝先 恵介

芝先 恵介

外資系業務ソフト会社より、仲間4人とともに2002年独立し代表就任。ウェブのシステム開発、広告代理店を始める。2013年同社を売却。 2014年からフリーランスでスタートアップ、大企業の新規事業立ち上げ支援を開始。2016年に訪日外国人×地方創生を行う株式会社トラベルテックラボを大学院の仲間と設立。その他、大学等のマーケティング・経営戦略の非常勤講師や、公益財団法人大阪産業局 あきない経営サポーター、DXアドバイザー、独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー、エンジェル投資家など

関連記事

TOP