サブスクリプション型ビジネスが普及してきたいまの時代は、商品やサービスを売るだけではなく、顧客に価値を提供しつづけることがとても重要になってきました。
そこで、今回は、サブスク型ビジネスにおいて必須な「カスタマーサクセス」という役割について、概要と実践方法を解説していきます。
この記事でわかること
- アダプションとは何か、アダプションのよくある問題点と対策
- アダプションマネジメントの手順と業務に落とし込むときの4つのポイント
- サクセスプランニングの手順
- カスタマーサクセスが行うべき他部署との連携
アダプションマネジメントとは
「アダプション」とは、顧客がサービスを設計上の想定に合致した方法で利用している状態、つまり顧客がサービスに適応した状態を指します。顧客がアダプションしたかどうかは、顧客企業内の利用者の総数、利用頻度、利用機能数の3点で判断されることが多いです。カスタマーサクセスマネジャーは、アダプションの円滑化、つまり顧客がより積極的にサービスを利用するように施策を打たなければなりません。
アダプションマネジメントをする上での、よく起きる問題と対策は以下のとおりです。
問題点
- どの顧客がアダプションに問題をかかえているのか分からない
- 顧客のアダプションを改善する上で、バラバラな対応をとっている
- 介入しても、時間がかかるわりにその効果を計測しにくい
- 顧客の主要ステークホルダー(カスタマーサクセスチームのマネジャーやパワーユーザーなど)がアダプションの状態を把握できず、チームが直面しているアダプション上の問題に即座に対処できない
対策
- サービスを活用しきれていない顧客を特定し、状況を把握し、優先順位を設定する
- 顧客への働きかけを自動化、標準化することで、多数の顧客に効率的に、統一した対応をとる
- アダプションの改善に最も効果的なアプローチを特定し、そこから学んだ内容を今後のオペレーションに活かす
アダプションマネジメントをする際は、以下の手順で進めると良いでしょう。
- 自社サービスにとっての「アダプション」はどういう状態かを明確にする
- 介入が必要な顧客に優先順位をつけ、順位に応じて人手をかけるかデジタル化するかを決める
- 一連の過程からの学びに基づいて、トラッキングや優先順位づけの基準を改善する
これらを繰り返していくことで、アダプションマネジメントの好循環が生まれます。
業務に反映するときのポイント
アプローチを業務に反映する際は、以下4つのポイントを押さえる必要があります。
ポイント①:
担当顧客のアダプションが健全かどうかを判断する方法を決める
ポイント②:
アダプションの状態に応じてとるべきステップを決める
ここでのステップごとのアクションは、以下のように実施するのがおすすめです。
- デプロイメントレビュー:顧客に初期設定を完了してもらうために必要な働きかけを考える。顧客と課題解決のための行動計画を作成する。
- チェアサイド面談:利用状況ギャップを把握するために、実際のユーザーと面談し、日常業務を詳細に説明してもらう。ここで、サービスに関するナレッジレベルを把握し、ギャップを特定することで、ワークフローの見直しや、顧客に必要なトレーニングプログラムの提案をすることができる。
- 活用方法の最適化:顧客が選択したサービス設定に対し、彼らのニーズをより満たすための設定変更を提案する(「チェアサイド」面談後に行うことが多い)。
- アダプションレビュー:顧客の社内で最もアダプションが進んでいるユーザーのサービス利用状況を観察し、他のユーザーとの違いを分析してパターン化する。
- エンドユーザー向け相談室:ユーザーと定例会議を設定し、ユーザビリティに関する質問やフィードバックを受ける。
- 機能ロールアウト:新規リリースを紹介する。顧客が長年かかえていた課題を解決するものなら特に有効。導線がスムーズになったなど、ユーザー体験に関する改善内容を強調するといい。
- リフレッシュトレーニング:リフレッシュトレーニングを実施する。実装期にアダプションが進まず、そのまま数カ月経過している顧客に対しては特に重要。
- 成功事例の紹介:業務改革をする上での課題について顧客と話し合う。顧客の利害関係者に向けて、他社顧客の成功事例を紹介したり、可能なら健全にアダプションできている顧客を直接紹介する。
- サービス利用促進キャンペーン:未活用のテーマまたは機能をきっかけとしたキャンペーンを実施する。
ポイント③:
働きかけるべき顧客を判断する
多数の顧客を担当している場合は、基準を事前に決め、優先的に対処すべき顧客を自動的に特定する仕組みを作っておきます。以下の図は、あるカスタマーサクセスマネジャーの担当顧客のヒートマップで、どのヘルススコア指標に問題があるかが一目でわかる。
ポイント④:
アダプションに関する情報を顧客に報告する
サービスが価値を生みだしているか、価値をさらにどう向上できるかを、顧客の利害関係者に知ってもらいます。アダプションが進むかどうかは最終的には顧客次第なので、活用度合いに関するデータを提供しながら顧客と連携を進めます。そうした連携を大規模に展開した
以下は、アダプションに関するデータを顧客に報告する際のメールサンプルです。
サクセスプランニングとは
サクセスプランニングとは、ベンダーと顧客がゴールを達成するためのすり合わせを行う過程のことを指します。
すり合わせる内容には、①目標の達成に必要なステップ、②進捗を確認するための中間指標、③目標達成までのスケジュールなどが含まれます。
サクセスプランニングは、目標達成に対する責任意識の醸成を目的として、取引開始直後に作ることが多いです。
サクセスプランニングでは、以下3つの点を押さえましょう。
- 顧客のビジネス上の目標を確認すること
- 目標達成に必要なアクションを特定すること
- 計画どおりのアクションをとること
ただし、顧客も自社も状況は刻一刻と変化するので、サクセスプランは流動的であり、常に見直しが必要であることに注意が必要です。
サクセスプランニングの手順
- ビジネス目標を確認する
顧客のビジネス目標は取引開始後の顔合わせのときに確認すると良いですが、ステークホルダーそれぞれが重要な情報を持つ可能性があるため、一度の会議ですべてが分かるわけではない点に注意しましょう。
また、何をもって成功とみなすかについては、定量的基準、定性的基準のいずれも必要です。
- 戦略、計画を策定する
提案ないし成功事例を紹介し、それがあてはまるか議論することから始めると進めやすいです。目標が複数ある場合は、様々な角度から質問し、カスタマー自身が優先順位を決められるよう導く必要があります。また、すぐに達成できる目標があるかどうかや、顧客と自社の主な実務担当者、および責任者が誰なのか明確にしておくこともおすすめです。
- サクセスプランを文書化する
サクセスプランに関するヒアリング結果を詳細に記録します。
顧客のビジネス上の目標とそれに対する現状については、その目標を定量的/定性的のいずれかに分類した上で、定性目標については何をもって成功とみなすかの主観的基準を記録しておくことも重要です。
- 進捗をトラッキングする
目標達成に向けた進捗のトラッキングは、以下の3ステップで行います。
- STEP1.顧客をリードし、進展させる
定例会議を活用しながら、サクセスプランを元に常にネクストアクションを明確にし、活用に向けた勢いを維持しましょう。
- STEP2. 成功を記録に残し、関係各位にシェアする
定例会議では、目標を更新し、長期的またはポジティブな傾向について説明します。目標が1つでも達成されたら顧客に書面またはメールで知らせて喜びを分かち合ったり、社内にも共有すると良いでしょう。
- STEP3. ビジネス目標を検証し更新する
ビジネス環境の変化によりサクセスプランの変更が必要になったときは、目標のリストと各目標の成功基準の見直しを行います。なお、各目標を「最後に確認した」日付は忘れずに記録し、確認についても可能な限り自動化、効率化すると良いでしょう。
組織横断の協業体制
最後に、組織内での協力体制を築くためのポイントをみていきましょう。
営業・サポートチームとの協力
サクセスプランの作成や目標の達成には、営業やサポートとの連携は必要不可欠です。
例えば
- 営業が商談中で収集した情報をビジネス目標の設定に役立てる
- サポートチームを巻き込んで、初期設定やサービス導入をスムーズに行う
など、様々な連携が考えられます。
以下の図は、各チームが役割を果たし、効果的に計画策定を行う場合の図解です。
プロダクトチームとの協力
より優れた商品やサービスを提供するためには、プロダクトチームとカスタマーサクセスチームが積極的にコミュニケーションをとることが重要です。プロダクトチームはカスタマーサクセスチームが収集した顧客からのフィードバックに耳を傾け、カスタマーサクセスチームはどのような段階を経て顧客のニーズを満たすサービスが開発されるかを理解すべきです。
この2つのチームが取りうる協力体制の例は、以下のとおりです。
- 定期情報交換会急速成長中のスタートアップなら毎月、サービスが市場に定着している大企業であれば四半期ごとなどで、情報交換会を設定する。プロダクトチームが実装予定または検討中の新機能について説明し、カスタマーサクセスチームからは、顧客に価値を提供できそうな新機能を提案する。
- 成功基準の設定とトラッキングプロダクトチーム、カスタマーサクセスチームの両者が共通で使用する成功の基準値を設定しトラッキングする。ここでは、顧客のチャーンのような遅行指標を使わずに、デイリーアクティブユーザーのような、顧客がサービスから価値を得ているかどうかを示唆する先行指標を使うことに注意。
- 新機能の検証プロダクトチームが新機能の正式リリース前にベータ版を顧客に試してもらい検証を行うが、ここでカスタマーサクセスチームがタイムリーにフィードバックを受けられるように顧客に働きかける。
まとめ
- 顧客に商品やサービスの価値を見出してもらうためには、利用を促進するためのアダプションマネジメントの仕組みづくりが重要。
- 個々の顧客のビジネス目標の達成に向けて、顧客と共同でサクセスプランニングを行い、進捗を共有する。
- カスタマーサクセスチームは、顧客の目標達成や優れた商品の開発のため、営業、サポートチーム、プロダクトチームなどの他部署との連携が不可欠である。
出典:
アシュヴィン・ヴァイドゥヤネイサン、ルーベン・ラバゴ『カスタマーサクセス・プロフェッショナル‐顧客の成功を支え、持続的な利益成長をもたらす仕事のすべて』英治出版(2021)