営業という仕事は、これまで少しずつ着実な進歩を遂げてきました。
ソリューション営業が主流である中で、「チャレンジャーセールスモデル」は今後の営業という世界において確実に効果を上げる手法となります。顧客と関係を構築すれば売上がついてくるという考えは、そう簡単に通用しなくなりました。チャレンジャーの営業手法を習得し、持続性の高い競争優位を構築していきましょう。
この記事でわかること
- チャレンジャーセールスモデルの「適応」と「支配」の実践方法
「適応」の実践方法
メッセージを顧客に適応させる方法
意思決定者がサプライヤーとの取引でいちばん気にするのは、そのサプライヤーが「社内で幅広く支持されている」ことである。
従来の販売員は、顧客内のインフルエンサーから情報を引き出し、意思決定者にきめ細かな営業トークを披露した。しかし、新しいモデルでは、あなたのソリューションに対する幅広い支持を築けるステークホルダー(インフルエンサー)を通じて、間接的にアプローチする ほうがよい。
ひとつの方法としては、まず一番広いレベルである顧客の「業界」からスタートし、その人の「会社」「役割」「個人」という具合に下りていくとよい。たんなる営業トークではなく、顧客の業界や社内で何が起こっているかを話すことができれば、 メッセージ適応化のスタートラインに立ったといえる。
営業担当者が、顧客の置かれた環境やめざす成について、顧客の言葉で語ることができるようになることが大事である。それぞれのステークホルダーに、その人が顧客そのものであるかのように接するのだ。
「支配」の実践方法
事前準備
一般的な販売員を受動的な態度から抜け出させるには、営業プロセスを効果的に支配するうえで妨げとなる「さっさと終わらせたい」という願望に対処しなければならない。この点、「チャレンジャー」は顧客との会話中に沈黙が訪れても気にしないし、通常より長く交渉を続け、顧客の反論につきあうのも苦にしない。
人間の行動を変えるのは現実的には難しい。だが、販売員にみずからの性向を理解させたうえで、 価値をめぐる議論の最中に簡単に妥協しないよう導く実践的ツールは、提供できる。販売員に交渉を支配させるために重んじているのは、「計画を立てる」ことだ。顧客に尻込みすることなく挑みかかれるようにするには、そ のための戦略を事前に準備するしかない。(以下は、デュポンの事例。交渉計画立案の簡単なテンプレートを営業担当者に提供している。)
交渉を成功させるコツ
これは、交渉のなかで建設的な緊張関係を維持するためのロードマップともいえる。
①同意と抵抗
値引きという譲歩を求められたとき、「価格が大事なのはもちろんですが、その前に、私が御社のニーズを十分理解しているかを確認させてください。この取引を御社にとって価値あるものにするため、できるだけのことをしたいのです。よろしいでしょうか?」
販売員は、会話の終結を約束したが、同時に、いま少し話を続ける許可をとりつけた。これ はたいへん重要である。なぜなら、抵抗してもよい(値引きの件を先送りしてもよい)という許可を、顧客からもらわなければ次に何を言っても聞いてもらえないからだ。
②深化と拡大 ③探査と比較
ここでのポイントは、「自分たちにとって何が重要か」という顧客の認識を広げさせることである。価格のほかに何が重要か?すべてをテーブルに載せ、もはや価格だけが交渉の対象ではないようにする。そのうえで、「20%の値引きで、何を達成しようとお考えですか?」のように切り出すのがポイントである。つまり、顧客の要請の根拠を明らかにするのだ。
価格以外にも、顧客のために価値を生み、課題解決を手助けする方法はある。その過程で、販売員は交渉の選択肢を大幅に拡大できる。そうなれば、売上にあまり響かない譲歩策や、顧客がもっと喜 ぶ選択肢も提案しやすい。顧客に対するさまざまな条件や選択肢を比較するときに重要になるのが、訪問営業前に用意した計画だ。
④計画に従った譲歩
たとえば、小さな讓歩から始めて 徐々に大きな譲歩をするやり方や、「この条件をのむか、のまないかだ」のように強く迫るやり方は、リスクをともなうだけでなく、顧客をだまされたという気持ちにさせるからお勧めしない。大きな譲歩案から始めて、交渉が続くなかでだんだん小さな譲歩へ移るように、当事者の両方が最終的に納得できる順序や規模で讓歩する。ここにあるのは、顧客を「だまされた」ではなく「勝った」と思わせる計画である。
注意すべき点として、本章ですでに述べ たように、「支配」は営業プロセス全体で起きるものである。「チャレンジャー」養成プログラム では、交渉だけを重んじることはない。さもないと、「ごまかし」(悪くすれば「不誠実」「不快」)という印象を相手に与え てしまう。
話を早くまとめるよりも方向性を明確にするほうがいかに重要か、そして営業プロセスのなかでどのように本当の価値を生み出せばよいかを、販売員に教えることが重要だ。ライバルが 自社製品の特徴やメリット中心の会話で武装した「関係構築」タイプを送り込むあいだに、あなたの会社の「チャレンジャー」販売員は、質の高いインサイトで顧客を引きつけ、顧客が気づき もしなかった問題を指摘・伝達する。ライバルは顧客を探すことに力を注ぐが、あなたは顧客をつくっているのである。
まとめ
今回は「適応」と「指導」の具体的な手法をみてきました。いずれも、事前の準備や計画をしっかりした上で、顧客に対峙するのが重要です。
最後に、3回にわたって、チャレンジャーセールスモデルについて学んできましたが、自身の営業に反映させられたでしょうか?顧客や自社にも成果を出し続けるために、チャレンジャーセールスモデルを日々実践していきましょう。
出典:『チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」』|マシュー・ディクソン Matthew Dixon,ブレント・アダムソン Brent Adamso |海と月社