サブスクリプション型ビジネスが普及してきたいまの時代は、商品やサービスを売るだけではなく、顧客に価値を提供しつづけることがとても重要になってきました。
そこで、今回は、サブスク型ビジネスにおいて必須な「カスタマーサクセス」という役割について、概要と実践方法を解説していきます。
この記事でわかること
- 顧客のセグメンテーション
- カスタマージャーニーにおける「真実の瞬間」の特定
適切なセグメンテーション
顧客との関係を管理するための顧客データの整理手法として、「セグメンテーション」が有効です。ここでのセグメンテーションとは、共通する一定の特質をもった顧客や見込み客のグループに分けることを指します。
セグメンテーションを適切に行えば、最適化した顧客管理ができたり、各顧客の相対的な価値も明らかになることで、それに基づいたタッチモデルを決められるというメリットがあります。また、適切なタイミングでふさわしいリソースを投下できるので、結果、カスタマーサクセスチームの効率性を高めることができます。
セグメンテーションの方法は業種・業界によって異なりますが、最も有効なセグメンテーションは、自社にとっての価値の高さで顧客を分類する「バリューセグメント」です。その中でも、契約金額、カスタマー規模、業界、ブランド、顧客の推薦の5つの軸が、最も一般的に使用されています。
- 契約金額:売上の多寡に基づくシンプルな顧客のランク付け
- カスタマー規模:単なる事業規模ではなく、契約拡張を見据えた定期収益への総合的なポテンシャルによってランク付け
- 業界:その業界が自社ソリューションに最適かどうかでランク付け
- ブランド:顧客のブランド力や認知度でランク付け
- カスタマー推薦:カスタマーヘルスや活用状況が良好で、見込み客へのサービスの推薦を期待できるかどうかでランク付け
セグメンテーションの軸はたくさんありますが、分類プロセスを複雑にしないよう注意が必要です。シンプルな3~4つのセグメントに絞ると、新規顧客を簡単かつ論理的に分類できます。
セグメンテーションは全部門(営業、マーケティング、カスタマーサクセス、サポートなど)で共通のセグメント軸を使用することが望ましいです。ただ、例えば、一部の顧客だけが、高度な技術的アドバイスや対面でのサポートを必要とし、それに該当する顧客とそうでない顧客が同一セグメントに区分されてしまう場合は、カスタマーサクセス独自の軸でセグメンテーションすると良いでしょう。
また、セグメンテーションは、顧客を分類して費用対効果や時間効率を向上できるだけでなく、各顧客のニーズや優先順位を正しく反映したジャーニーマップの作成にも役立ちます。
カスタマージャーニーにおける「真実の瞬間」の特定
ジャーニーマップには、顧客の印象に残るようなサービスとの関わりや体験も描かれます。中でも最も重要なのが、ジャーニーマップに必須の「真実の瞬間」と呼ばれる体験です。
「真実の瞬間」:ある件についての特徴あるやりとりに関する有意義な体験
「真実の瞬間」は、顧客が感情面から成果にコミットし、あなたとのパートナーシップの価値を判断する瞬間となるため、成否の分かれ目となります。ジャーニーマップ上の節目節目で顧客の成果を達成するような工夫を取り入れて、しかるべき「真実の瞬間」を設定することが有用です。
例:ホテルのフロントでチェックインするときなど。その際の対応で、宿泊期間中の気持ちが左右される。
「真実の瞬間」の定義
- 店頭、オンラインを問わず、顧客が商品やサービスを見ている時
- 顧客が実際に商品やサービスを購入し、使用した時
- 顧客が商品やサービスについて、メーカー、友人、同僚、家族のいずれかにフィードバックした時
はじめて「真実の瞬間」を定義する場合は、自社と顧客の双方に共通する「真実の瞬間」をいくつかピックアップし、その瞬間に顧客がどう感じるかに着目すればよいでしょう。ここからは、「真実の瞬間」の主要なタイミングを解説します。
営業からの引継ぎ
ある見込み客が、長い期間をかけて営業チームとの商談を進め、契約を締結したとたんに、これまで顔を合わせたことのない大勢の人(オンボーディングチーム、サポートサービス、カスタマーサクセスマネージャーなど)が登場すると、顧客は不安な気持ちになります。
したがって、営業チームからオンボーディングチームヘの引継ぎは、とても重要な節目となります。営業が顧客からヒアリングした内容は、データとしてカスタマーサクセスに共有し、必要に応じて、引継ぎ会議の前に不足情報についての質問を行いましょう。
初接触/オンボーディングのキックオフ
顧客の期待値は最初のコンタクトで決まります。抜け漏れなく引継ぎをし、良い顧客体験を提供するために、以下のような施策が有効です。
・営業から事前に情報共有を受けていて、再度同じ説明を求めることはないことを顧客に伝える
・会議終了後に、プロジェクトプランとネクストステップを明確にした議事録を送信する
・カスタマーサクセス担当役員とCEOからウェルカムメールを送信する
利用開始
顧客が利用開始するタイミングは、商品やサービスに対する第一印象が形成される時なので、非常に重要な「真実の瞬間」が生まれるタイミングでもあります。
・商品やサービスの効果的な利用方法
・不明点があった際の対処法や問い合わせ先
・自身が着実に前に進んでいることが分かるような利用データ
などを共有し、目指すゴールに到達できると思ってもらうことが必要です。
顧客の担当者、担当役員の変更
顧客の主要担当者、もしくは担当役員の退社または異動があった場合、ビジネスの優先順位が変わることは多々あります。そんなときは、すぐに顧客に連絡を取り、自社の関係メンバーとの会議を設定しましょう。
会議では、現時点までの貢献内容、今後の目標、優先順位の再確認を行い、早期に信頼関係を築くことが重要です。また、前任者が退社していたなら、現在の勤務先を営業チームに共有することで、確度の高い営業先にできる可能性も高いでしょう。
ビジネスレビュー
「ビジネスレビュー」とは、顧客に対して、ヘルス状態やゴールに向けた進捗を伝える方法で、四半期ビジネスレビューや、ヘルスレポート・データ解説の自動送信などがあります。
ここで、レビューの目的と進捗を明確に伝えることができれば、顧客の信用をつかみ、現状を踏まえたその後のアクションも確実に実行してもらうことができます。
契約更新
契約更新を必然とするために、更新時期の前後には万全の準備が必要です。
カスタマーサクセスマネージャーは、更新時期の最低でも120日前には連絡を取り、これまでの提供価値や今後も期待できるメリットなどの説明をするべきです。これなら、何らかの懸念があっても更新時期までに立て直す時間があるからです。
また、更新手続きが完了したら、更新に対する謝意と計画詳細化の機会を持ちたい旨を伝えるメールを送り、顧客に今後の展望が楽しみだと思ってもらいます。
まとめ
以上のように、「真実の瞬間」にいかに準備して向き合うかが、カスタマージャーニーを効果的にマネジメントするカギとなります。次の記事からは、ヘルススコアの定義づけと、顧客に関する理解度と洞察を向上するテックタッチ戦略についてご紹介します。
出典:
アシュヴィン・ヴァイドゥヤネイサン、ルーベン・ラバゴ『カスタマーサクセス・プロフェッショナル‐顧客の成功を支え、持続的な利益成長をもたらす仕事のすべて』英治出版(2021)