サブスクリプション型ビジネスが普及してきたいまの時代は、商品やサービスを売るだけではなく、顧客に価値を提供しつづけることがとても重要になってきました。
そこで、今回は、サブスク型ビジネスにおいて必須な「カスタマーサクセス」という役割について、概要と実践方法を解説していきます。
この記事でわかること
- カスタマーサクセスとは何か
- カスタマーサクセスが生まれた背景
- カスタマーサポートなどとの違い
- カスタマーサクセスの方程式と4つの分類
カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスは、サブスク型ビジネスにおいて顧客の目標達成をサポートすることで、解約の防止やアップセル・クロスセルにつなげる役割を担います。
具体的には、顧客のオンボーディングのサポートや、サービス利用の促進、フィードバックの収集、解約理由のヒアリングなど、成約した顧客に対して能動的な働きかけを行います。
カスタマーサクセスが生まれた背景
ビジネスモデルの変化以前は、例えばシステム導入というと、コンピューター自体に取り込む形式のため大型の初期投資が必要でしたが、システムがクラウド化したことで導入、乗り換えが容易になりました。それに伴い、ビジネスモデルが従来の売り切り型ではなく、年次または月次料金という形で継続して収益を得るサブスクリプション型に変化し、他の商品やサービスもサブスクリプション型にどんどん移行しています。
売り手から買い手へのパワーシフトサブスク型ビジネスでは、顧客は多額の初期投資や長期契約に縛られずに製品やサービスの提供を受けられるので、期待したサービスを受けられなければ、これまでよりはるかに簡単に解約できるようになりました。そのため、売り手から買い手へのパワーシフトが起き、企業側は買い手のニーズを満たし続ける必要が出てきたのです。
LTV(顧客生涯価値)という重要指標従来の売り切り型ビジネスでは、いかに多くの新規顧客を獲得するかが最も重要でした。一方で、サブスク型ビジネスでは、新規顧客の獲得に成功したとしても、後に多くの顧客が解約してしまうと、それを上回る新規顧客を獲得しなければ売上は伸びません。
しかし、新規顧客の獲得コストや市場規模の限界を考えると、既存顧客との取引を維持するために投資する方がはるかに効率が良いでしょう。ここでカギとなるのが「LTV(顧客生涯価値)」という指標です。つまり、成約から解約までに顧客1件あたりから得られる収益を最大化することが、サブスク型ビジネスでは重要となります。
担当部署の不在→カスタマーサクセスの誕生
これまで既にあった「カスタマーサポート」という部署は、問い合わせ対応や問題が起きたときの火消しをその都度行いますが、顧客がめざす成果を得られるように長期的に取り組む部署ではありません。そこで、それを専門として行う「カスタマーサクセス」という役割が誕生したのです。
カスタマーサクセスの3つの役割
それではここで、カスタマーサクセスの役割についてみていきましょう。
①顧客の維持、契約更新
サブスク型ビジネスでは、新規契約を獲得した後にすぐに解約されてしまったのでは、穴があいたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。したがって、カスタマーサクセスはしっかりと穴をふさぐ、つまり解約を防止して契約を維持していくことにまずは注力する必要があります。
②売上の拡大
顧客が商品やサービスに満足している場合、そのサービスに好印象を持つようになり、例えば新機能や別のサービスを販売する場合に、アップセルやクロスセルをしやすくなります。
カスタマーサクセスは、顧客の満足度向上を図ると同時に、売上の拡大というセールス的な役割も担うことになります。
③紹介や口コミの促進
顧客の満足度が高ければ、自発的に知人に紹介してくれたり、世間に良い口コミを広めてくれるようになりります。これらをカスタマーサクセスが促進することで、マーケティングやセールス活動への大きな貢献となります。
他の部署との違い
では、他の部署との違いはどのような点なのでしょうか?
カスタマーサポートとの比較
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは混同されがちですが、カスタマーサポートは顧客からの問い合わせや依頼に応じた1つ1つの案件処理が基本で、発生した問題の火消しなど後付けの対応がほとんどです。
それに対してカスタマーサクセスは、顧客との長期的な関係構築に注力するものです。8:2のパレートの法則に当てはめると、業務の80%が自発的な働きかけ、残り20%が依頼への対応となるべきです。(この割合が逆転している場合は、その組織はカスタマーサクセスではなく、カスタマーサポートの発展型といえます。)
営業やアカウントマネジメントとの比較
営業マンも顧客との関係構築や、顧客の課題解決にも取り組みますが、営業活動は数字を追うのが基本です。したがって、顧客とのやり取りは顧客が契約にサインしたときにピークを迎えます。一方でカスタマーサクセスは、カスタマージャーニーの全ての段階で関係を育み、顧客が目指す成果をあげられるように取り組みます。
また、アカウントマネージャーが行う担当顧客からの収益管理は、カスタマーサクセスの主要業務ではありません。カスタマーサクセスでは、収益管理ではなく、顧客に「自社と取引をするのが得策だ」と思ってもらうために常に自社ソリューションの営業をすることになります。
カスタマーサクセスの方程式
カスタマーサクセスを方程式にすると、以下のように表すことができます。
つまり、サービスやサポートを通じての良い体験(Customer Experience)と、サービスによって得られた成果(Customer Outcome)の両方があって初めてカスタマーサクセスということができます。
下図は、縦軸を「顧客体験の快適さ」、横軸を「顧客が得られた成果」として、4象限に分類したものです。
- 右上:最も望ましい状態。ブランドが訴求したメリットを確実に提供し、顧客がめざす成果を得ると共に素晴らしい体験も得られているケース。
- 左上:あなたの会社とのやり取りは非常に良い体験だったにもかかわらず、めざした成果につながらなかった状態。この象限に分類される顧客は「健全」であると誤認されやすい。
- 右下:めざした成果を上げられたけれど、あなたの会社とのやり取りは最高とは言い難い状態。こうした顧客は解約にこそ至らないが、契約を拡張するとは考えられにくい。また、競合他社が同等の成果を快適なユーザー体験とともに提供するとアピールすると、顧客はそちらに目を向ける可能性もある。
- 左下:成果を上げられず、顧客体験も良くないと感じている状態。言うまでもなく、最も解約のリスクが高い。
顧客と向き合うための事前準備
これからカスタマーサクセスマネージャーとして顧客と担当するときには、入念な準備が必要です。まずは以下の準備をしておくとよいでしょう。
- 最低75%まで準備しておく
- 30分ではなく25分、60分ではなく55分で会議を設定(双方が次の予定を気にせず、安心して会議にのぞめる)
- 最近実施した顧客アンケートに、顧客が協力したかどうか確認
- 直近に顧客に送ったメール(サービスリリースや次回イベントのお知らせなど)を開封しているか確認
- サービスの利用、活用状況データに目を通す
- 顧客が別ルートで自社と関わっていないか確認
- アンケート調査への回答内容、利用状況、サポートチケット関連のデータ、コミュニティへの参加状況を確認
- 顧客のウェブサイトでニュースやプレスリリースをチェック
まとめ
- サブスク型ビジネスには、カスタマーサクセスという役割が必須になっている。
- カスタマーサクセスは、「顧客の維持、契約更新」「売上拡大」「紹介や口コミの促進」の3つの役割を担う。
- 案件ベースの対応が基本となるカスタマーサポートとは違い、カスタマーサクセスは顧客との関係構築に長期的に取り組む部署である。
- カスタマーサクセスのためには、顧客体験の快適さと顧客の成果の両方を追求する必要がある。
- 顧客と向き合うときには、その顧客に関するあらゆる情報収集が必要。
出典:
アシュヴィン・ヴァイドゥヤネイサン、ルーベン・ラバゴ『カスタマーサクセス・プロフェッショナル‐顧客の成功を支え、持続的な利益成長をもたらす仕事のすべて』英治出版(2021)