営業という仕事は、これまで少しずつ着実な進歩を遂げてきました。
ソリューション営業が主流である中で、「チャレンジャーセールスモデル」は今後の営業という世界において確実に効果を上げる手法となります。顧客と関係を構築すれば売上がついてくるという考えは、そう簡単に通用しなくなりました。チャレンジャーの営業手法を習得し、持続性の高い競争優位を構築していきましょう。
この記事でわかること
- チャレンジャーセールスモデルの基本原則
- チャレンジャーになるための指導のポイント
営業体験の重要性
今回は、実際にチャレンジャーセールスモデルを実践していく方法をみていく。
詳細に入る前に、営業体験がいかに重要であるかを再認識し、チャレンジャーセールスモデルの基本原則を確認しよう。
調査結果より、ブランド、製品、サービスがロイヤルティに与える影響が比較的小さいと言える。他のあらゆる面で似たり寄ったりの業者でも、営業体験となるとそれぞれの会社でまったく異なる。そして、その差こそが顧客ロイヤルティに大きな影響を及ぼしているのである。顧客は「会話そのものにお金を払ってもよい」とも考えるほどであり、ロイヤルティの半分以上が、何を売るかではなく、どうやって売るかの結果だと言える。
ちなみに、ロイヤルティに貢献する営業体験の特徴として、次の5つが上げられる。
- 市場に関する独自の価値ある視点を提供してくれる
- さまざまな選択肢を検討する助けになる
- 継続的なアドバイスを提供してくれる
- 「地雷」を避けるのに役立つ
- 新しい問題や結果について教えてくれる
このことからも、顧客が重視するのは販売員の発見能力よりも指導能力である。
基本原則
- チャレンジャーは育成できる
- スキルがそろっていることが重要
- チャレンジャーは販売員だけではなく、組織の能力開発も必要
- チャレンジャー育成は一夜にしてならず
養成方法
商談直結型の指導
どれだけ優秀なチャレンジャーでも、自社のビジネスに直結する指導が出来なくては意味がない。商談直結型の指導には次の4つのルールがある。これらのルールは、個人のスキル向上のみならず、組織の能力開発にも関係してくる。
①自社ならではの強みに繋がること
顧客が望む新しいインサイトを伝授すると同時に、そのインサイトを自分ならではのソリューションと結びつける。顧客に対して、たんに助けを求めるのではなく、私に助けを求めるように教え込むのである。これをうまく実行するには2つの注意点がある。
1)新しい視点ややり方を教えるだけでなく、実際に解決まで自社で対応できること
2)「自社が競合他社より得意にするものは何か?」と、自社の強みをしっかり把握しておくこと
ふたつの業者の区別がつかないとき、顧客は安いほうを選ぶ。「顧客はなぜ、他社ではなくわが社から買うべきなのか?」という質問に答えられるかどうかである。顧客に教えるインサイトを、自社にしかない能力と結びつけないかぎり、それは「商談直結型の指導」ではなく、たんなる無料コンサルティングである。
②顧客の仮説を覆すこと
顧客が既に知っていることを確認・検証してあげれば感謝されるが、顧客が知っていることを、彼らだけではできないやり方で修正・補足するのが価値が高い。そのようなインサイトは、顧客のビジネスについて、顧客以上によく知っていなければならない。顧客からは「えっ?そんなふうに考えたことはありませんでした」と言われるような反応が引き出せるはずだ。と答える顧客は、明らかに関心をいだいている。とはいえ、別の見方を示しただけでは不十分で、別の行動の仕方を教えないといけない。
③行動を促すこと
最終的には顧客に行動を起こさせなければならない。そもそも、行動・実行がなぜ重要なのかという、説得力あるデータを見せる必要がある。重要なのは、顧客のビジネスであり、彼らが見逃していた利益アップの方法やコスト削減の方法を提示することである。顧客は何かを購入する前にまず、 問題を解決することでどんな見返りがあるのかを理解したいのだ。
④他の顧客への拡張性があること
これらのアプローチは、顧客ごとではなく、顧客セグメントごとに実行した方が、明らかに効果が高い。しかし、組織的なサポートがないまま、顧客の事業を顧客以上に理解せよと販売員に注文するのは酷である。このやり方を成功させるためには、少数の強力な、できるだけ幅広い顧客層に当てはまるインサイトが必要だ。「商談直結型の指導」は、個々の販売員の手に委ねればすむ問題ではない。
また、顧客セグメンテーションについても、ニーズが似通った顧客グル ープが見つかれば、所在地や扱う製品とは無関係に、その顧客は共通のインサイトに対して同様の反応を示す可能性が高い。
6つのステップ
では、実際に指導的な会話を進めるためのステップを紹介する。
ステップ①地ならし
顧客にとって最も関心が高そうな課題にまつわる他社のエピソードを紹介し、その顧客の経験を裏づける。顧客のニーズについて質問するのではなく、みずからの経験や調査をもとに、顧客のニーズについて仮説を立てるのである。このステップで肝心なのは、信頼を築くこと。
ステップ②再構成
このステップが会話全体の要となる。ステップ①で顧客が認めた課題を踏まえて、彼らが気づいていない新しい視点を提示する。この時点でのゴールは、インサイトを詳しく説明することではない。
ステップ③裏付け
ここでは、ステップ②の再構成がなぜ大切で有効かを、データやグラフなどを使って数値で示す。
ステップ④心をゆさぶる
このステップの要諦は、あなたが語るストーリーのなかに、顧客を取り込んでしまうことにある。顧客が、自分のストーリーと思えるように当事者意識を持たせる必要がある。
ステップ⑤新しい方法の提示
次はその解決策について納得させる番だ。あなたの製品・サービスを買えばどうビジネスが改善されるか、という話ではなく、行動を変えればどうビジネスが改善されるかという話をする。
ステップ⑥ソリューションの提案
同意を得たソリューションを、自社が他の誰よりもうまく提供できることを、具体的に説明する。
お分かりのように、自社のソリューションが初めて会話に登場するのは、ステップ⑥の最後なのである。指導のなかで自社のソリューションを前面に出すのではなく、指導的会話の自然な帰結として、ソリューションに言及する、そんな流れが必要である。自分の営業スタイルを振り返りながら、比べてみよう。
しかし、すべて個人に委ねるのではなく、組織として以下のサポートを提供が必要である。
- 組織が顧客ニーズを事前に調査する
- 会話の台本を事前に作成する
- 顧客に買わせたいソリューションを事前に定義する
まとめ
今回は、改めて営業体験の重要性を確認し、チャレンジャーセールスモデルの基本原則や「指導」的な会話を行うために心得えるべきポイントを学びました。6つのステップに習って、自身の営業の流れを整理して、実践していきましょう。
出典:『チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」』|マシュー・ディクソン Matthew Dixon,ブレント・アダムソン Brent Adamso |海と月社