営業という仕事は、これまで少しずつ着実な進歩を遂げてきました。
ソリューション営業が主流である中で、「チャレンジャーセールスモデル」は今後の営業という世界において確実に効果を上げる手法となります。顧客と関係を構築すれば売上がついてくるという考えは、そう簡単に通用しなくなりました。チャレンジャーの営業手法を習得し、持続性の高い競争優位を構築していきましょう。
この記事でわかること
- チャレンジャーセールスモデルの背景や概要などの全体像
- チャレンジャーセールスモデルが顧客にどのような効果があるか、その事例
チャレンジャーセールスモデルの背景
2009年初めの世界的な不況下でも、優秀な売り上げ成績を残す社員がいたことに注目し、通常の販売員と一体何が違うのか?と大規模に調査したところから始まった。様々な企業の何千人もの販売員を対象に、四年にわたって調べた結果をもとに新たなモデルとして導き出された。
調査結果より、優秀な販売員はソリューションアプローチを実践する能力があった。その背景には、個々の製品・サービスの差別化がだんだん難しくなる、コモディティ化がある。そこで、競争相手がまねるのが難しい、高価格帯が維持しやすいソリューションアプローチへの移行が進み、新たな土壌で戦う必要性がある中で、優秀な販売員が適応していったのである。
トップ営業マンばかり依存しないために
従来のプロダクト営業の場合、平均的な販売員と花形パフォーマーの成績差は59%だった。ところが、ソリューション営業を導入している企業では、花形パフォーマーが平均的パフォーマーより200%近くも成績がよかったのだ。4倍近い差である。現在のように、営業が複雑になるほど、ハイパフォーマーと平均的パフォー マーの差が劇的に拡大するということだ。
ソリューション営業への移行で、花形社員への依存度が飛躍的に高まっているからこそ、営業モデルが複雑化するにつれて、平均的パフォーマーと花形パフォーマーの差を縮めることが非常に重要な課題なのである。
顧客の購買行動が大きく変化し、販売員の能力が急速に分化するこの時代、営業アプローチをそれに合わせて進化させないと取り残されてしまう。ソリューション営業のスキルを身に着けるだけでなく、顧客にも新たな需要を引き起こす力を身につけなければならない。それには特別な営業の専門性が求められ、それこそがチャレンジャーセールスモデルとなる。
チャレンジャーセールスモデルの概要
指導、適応、支配。この3つの能力が、チャレンジャーセールスモデルの柱である。
それぞれの能力は以降で解説するとして、これらの3つの能力を持った販売員がどんなタイプかみていこう。
あなたはどのタイプ?販売員の5つのタイプ
調査結果から、販売員は5つにタイプ分けされる。そこでは勝者と敗者が明確で、一番優秀なチャレンジャータイプの販売員が3つの能力を持っており、それをモデル化したものである。
5つの販売員タイプ
・ハードワーカー(勤勉タイプ)
・リレーションシップ・ビルダー(関係構築タイプ)
・ローンウルフ(一匹狼タイプ)
・リアクティブ・ブロブレムソルバー(受動的な問題解決タイプ)
・チャレンジャー(論客タイプ)
平均的パフォーマーと花形パフォーマーを分け、それぞれを別々に分析したところ、花形パフォーマー(目標に対する実績が上位20%に入る販売員)の比率をみると、チャレンジャータイプがハイパフォーマーの40%近くを占めている。
さらに、チャレンジャータイプは特に6つの属性がある。
- 顧客に独自の視点を提供する
- 双方向コミュニケーションのスキルに優れている
- 顧客のバリュードライバー(価値向上要因)を心得ている
- 顧客のビジネスの経済ドライバー(業績促進要因)を特定できる
- お金の話をいとわない
- 顧客にプレッシャーをかけることができる。
この6つの属性を三つのカテゴリーに分類すると、「チャレンジャー」の本当の姿が明らかになる。このタイプの販売員の特徴は、「指導する」能力、「適応する」能力、そして「支配する」能力にある。この3つの能力が、チャレンジャーセールスモデルのアプローチの核となる。
比較的シンプルな単独製品を短いサイクルで売るハイパフォーマーと、もっと複雑なバンドル製品やソリューションを比較的長いサイクルで売るハイパフォーマーとを比較すると、複雑な販売では、チャレンジャーが花形パフォーマーの50%以上を占めていた。「チャレンジャー」は、目の前の不景気に強いだけでなく、 これからのソリューション営業ができる。価値重視またはソリューション志向の営業アプローチを目指そうとするなら、チャレンジャー販売員が絶対必要である。
顧客への効果
では実際に、それぞれの能力が顧客へどのような効果があるかを事例をもとに見ていこう。
差別化のための「指導」
顧客のビジネスに関する独自の視点を提供し、その視点を熱意をこめて的確に伝えることで、顧客を会話に引き込む。この新しい視点とは、あなたの製品やソリューションのためのものではなく、”顧客の”市場競争力アップのためのものである。その知見を用いることで、顧客は営業経費を捻出したり、新たな市場に進出したり、リスクを軽減したりできる。
【指導の事例】(某オフィス用家具メーカー)
顧客は新しく本社を建て、家具の納入業者には別のライバル企業が選ばれていたが、「指導」のアプローチで、顧客の方針転換をさせた。
顧客は、社員どうしがもっと効果的に交流できる協働スペースの確保をしたいと考えていた。建築図面を見た販売員は、「8人のグループで協働は困難です。協働しやすいのは二人や三人で、七人になると生産性が落ちます。会議室のサイズをおまちがえかもしれません」と説明し、会議室の真ん中に可動式の間仕切りを設置すれば、三、四人用の部屋をふたつつくることができると提案したのである。まずインサイトを提供し、顧客が気づいていない問題について教え、関心をひきつけたのである。
共感を得るための「適応」
指導メッセージを様々な種類の顧客、ならびに顧客組織内の様々な個人に適応させることが出来れば、メッセージは一層共感を呼び、顧客の印象に強く残る。
【適応の事例】(某ビジネスサービス企業の事例)
顧客企業とつきあうなかで、社内のリーダーたちと信頼関係 を築きつつ、経営陣に対する重要なプレゼンテーションを準備したが、経営陣へのプレゼンテーションの一週間前、「CEO自 身の目標や動機をまだ十分に調べていない」と気づき、彼らはすぐに顧客企業の主な関係者と緊急ミーティングを開き、CEOの目標や目的を確認した。すべてはCEO本人にアピールできるインサイトがないかを探るために。それらを踏まえて提案したところ、競合他社が一般的な提案にこだわる中、この会社はCEOの最大の関心事にメッセージを適応させることで、契約を勝ち取ったのである。
営業プロセスの「支配」
チャレンジャーに特有の最後の特徴は、営業を支配し、主導権を握る能力である。先に断っておくと、主導権を握るというのは攻撃的になったり迷惑をかけたり悪態をついたりすることではない。支配とは、顧客の抵抗に遭っても一歩も引かないでいられることを意味するのである。
「チャレンジャー」のこの特徴は、ふたつのかたちで表れる。
第一に、彼らは価格設定を含めた お金の話全般について、主導権を握ることができる。10%の割引を要求されてもびくともせず、 話の内容をソリューションに戻し、価格ではなく価値をめぐる合意を求める。
第二に、顧客の考え方に異を唱え、顧客の意思決定サイクルに圧力をかけることができる。この圧力は、もっと早く結論を得るためであり、いつまでも決められない「優柔不断状態」を克服するためである。
【支配の事例】(価格メーカー)
長年付き合いのある顧客に値上げの通知をしなければならない状況に立たされていた。景気が悪い中での大幅な値上げであった。実は同社では顧客からの要望で何年も前から特注の高級な商品を納入していた。
ところが、値上げの話をするなかで、販売員が当該製品のさまざまな特徴を顧客にランクづけしてもらったところ、特注の高級パッケージは、トップ3にも入っていなかった。結局、両者は値上げの幅を抑える代わりに、パッケージを標準タイプにすることで合意した。そのパッケージの変更は、値上げ以上の利益を同社にもたらしたのである。
事例を見るとわかるように、自身や周囲でも、このような営業アプローチで契約を獲得している場面に出くわすことがあるだろう。改めて、自身の営業スタイルがどのようになっているかを振り返ってみよう。
まとめ
今回は、チャレンジャーセールスモデルとは何か?その全体像について学びました。事例をみていくと、すでに自身で実践できていたり、周囲に成果を出している人が実践しているケースもあるでしょう。改めて言語化することで、チャレンジャーセールスモデルの効果の大きさが実感できたはずです。次からは、チャレンジャーセールスモデルを実践していく方法について解説していきます。
出典:『チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」』|マシュー・ディクソン Matthew Dixon,ブレント・アダムソン Brent Adamso |海と月社